浪人していた妹が受験に合格した。

それもレベルの高い都会の私立大学らしい。

受験する教科を文系科目に絞ることで、一年間みっちり暗記に力を注いでいた。そして、作戦は見事に功を奏した。

間違いなく努力の結果だった。

親はとても喜んでいた。

僕はとても複雑な気持ちだった。

 

いや、実は複雑でも何でもない。

抱いた感情は紛れもなく嫉妬と忌まわしさだった。

ポジティブな感情なんてこれっぽっちもなかった。

他人の成功を手放しで喜べる人種は存在するが、僕はそっち側の人間ではないらしい。

知っていたが。

 

数年前、理系の僕は地元の、正直レベルの低い国立大学に合格した。

志もなければ、理由もなく努力できるほど殊勝な人間でもなかった。

しかし、合格した時に、僕は今まで決して抱いたことのないものが沸き上がった。

向上心だった。

「僕はこのままでいいのか、このまま進んでいくのか。満足するまで勉強して、そのときの結果を知りたい。」

そう思った。なにより、情報も少ない狭く退屈な田舎で大学生活を送るのが、どうしようもなく嫌だった。

とにかく、納得したかった。

僕は年甲斐もなく泣きながら親に訴えた。お金のかからない自宅での浪人でいいからさせてくれないか、と。

それに対し、

「今まで勉強してこなかったのが悪い。浪人させるなら予備校に入れる。でも浪人させてしまったら妹の選択肢が狭くなる。私立への入学をさせてやれない」

要約するとそういう返事だった。

尤もだった。

勉強してこなかった分を自分で取り戻したいのだ、と言い返したが取り合ってくれなかった。

また、親は浪人という立場を、どうやら想像以上に重く扱っているらしかった。

自分は、何年でも勉強して目標を目指せばいいという考えだったので、本質を見ていない(あくまで自分の価値観から見た本質だが)親に苛立った。

しかし、金銭面のことを、妹のことを親に言われてしまっては引き下がる他なかった。

 

二年後、妹の初受験だった。妹は滑り止めには受かっていたが、希望の大学には落ちていた。

どうしても滑り止めの大学には行きたくないらしく、自分と同様に浪人を訴えた。

親はそれに同意した。

「自分は泣きながらもっと必死に訴えたのに」そういうモヤモヤした気持ちはあったが、浪人には肯定的だったので、妹の要望が通ったことに対しては、納得できる気持ちがあった。

そして妹は、「宅浪でもくもくと一人で勉強するのはきついから、予備校に入れてほしい」と言ったらしい。

なんだこいつ、そう思った。家族のお金を何だと思ってるんだ。

そしてその要望は通った。親が、特に母が同情したらしい。

 

 

僕の頭は?だらけだった。

 

自分は国立しか許されなかった。

自分は泣きながら浪人したいと訴えた。

自分は予備校の金額なんて親に申し訳なさ過ぎて払わせられなかった。

 

なんで?なんで自分はダメなの?

 

知ってはいる。

自分は兄で妹がいる。

兄が妹の選択肢を潰すわけにはいかなかった。

それに妹はまじめだった。

理屈ではわかっていたけれど、自分の今の結果が理解を拒否した。

 

そして今年、妹は受験に合格した。

親は大喜びだった。

 

妹はこれから都会での楽しい大学生活が待っているだろう。

いいなあ。僕もほんとは文系に興味があったんだ。親も、仕事する男は理系に進むと思っていただろうし、実際に言われた。そして、当時の自分は言い出せなかった。

私立文系のそれなりに名の知れた大学で学びながら、都会で遊ぶのだ。

浪人したことなんてどうでもいいだろう。自分も妹も同じ高校なので、その辺の価値観は似ている。

 

だから、妹は納得して進んでいく。現状に満足しながら進んでいく。

 

自分は?

納得して進んでこれなかった。

 

これからは?

こんなのを間近で見て、納得して進んでいけるわけないじゃないか。

 

 

しくじったな自分。