久しぶりに会った私に岸先生が
「稽古していけ」
という。かなり怖かったのだが岸信行先生直伝という魅力で参加した。
私もその時点で空手歴自体は長かった。
基本稽古が始まる。
「あなた、早いよ。駄目だ。稽古でそんなに早くしたら、強くならない。」
私は頑張って遅くしてみた。
「まだ早いよ!」
と岸先生が言う。
「あのね、空手の基本は鈍行列車なの!
ゆっくり全身の力を正しく伝えて技にするために、瞬間、瞬間に力と形と呼吸を丁寧に合わせいかないと有効な技にはならないの。
あなたの稽古は壊れた新幹線みたいなもので、技は速く到着するけど、意味もなく早いから窓の景色はさっぱり見えないし、技の破壊力はどこか途中で無くしてるのよ」
私は従来の稽古で素早く何十本も稽古するものの、精力だけ着けて技になってないのではないかという自分自身の不安がこれを意味していると気づいた。
最近、岸先生がこの岸空手の稽古について私に語った。
「この岸道場の空手の稽古は年寄りでもやれる稽古なんだ。
あなた、基本稽古してて息上がるだろ?
なぜだか分かるかい?
技の中で体がどこか部分的についていけてないからだ。それが引きずられて技がおかしくて息が上がり力が出ないのを、走ってスタミナ補う、バーベルで力を借りてくるというのは違うんだよ」
これが大山倍達総裁が言いたかった他力本願の空手に対する意見かも知れない。
岸信行先生の空手の経験は大変深いしその知識は貴重だ。偏屈で山で稽古している訳ではない。
私は空手が本当に好きな人々のために岸先生の言葉を伝えて行きたい。
因みに、この一週間の稽古を終えて、慌てん坊の私が慌てなくなった心の落ち着きも岸空手の成果である。
(不動武)
