黒澤明の映画には、どれも魅力的なキャラクターが登場する。
それは黒澤監督の完璧主義が成せる、無駄の無いキャラの描き分けによるもの。
中でも『七人の侍』に登場する侍7人は見事で、武田鉄也曰く、「男の子には、必ず7人の中に格別な想いで見る侍が1人います。何故ならば自分の人生の中で築きたいと思っているダンディズムの完成が7人の中の誰かにいるんです」
この事から、ちょっとその7人の紹介でもしてみよう。
さて、あなたの理想は誰ですか?
1.勘兵衛
志村喬が演じた、侍の大将格。
知略に長けた歴戦の武士だが、主君運に恵まれず、人生負け戦ばかり。その為、白髪の混じった老兵でありながら浪人を続けている。
若い頃は「一国一城の主」を夢見たが、それも敵わぬ自分の年齢に一抹の憂いを見せる。
旅の途上、立て篭もった強盗から人質の赤ん坊を救った事で、それを見ていた農民に「村を野武士から守って欲しい」と頼まれる。
始めは渋っていたが、農民たちの悲痛な心に触れ、彼らのために立つ事を決める。
村の地形などを分析し、40騎の野武士と戦うには最低でも侍が7人必要だと判断する。
性格は穏やかで冷静だが、規律を乱したり自分勝手な行動を取る者には厳しく、時には抜刀する事もある。
2.五郎兵衛
稲葉義男が演じた、侍の副将格。
勘兵衛の参謀的存在。
いつも静かで柔和な表情を崩さないが、軍略の知識、実戦経験のどちらも豊富な浪人。
スカウトする武士の腕を試すために、勘兵衛は勝四郎に扉の影から棒で殴らせていたが、五郎兵衛はそれを気配だけで見抜き、「これはご冗談を」と朗らかな笑顔で返すシーンは印象的。
どちらかと言えば、農民の窮状を救うというよりも、勘兵衛の人柄に惚れ込み、彼に着いて来たところが大きい。
3.七郎次
加東大介が演じた、勘兵衛の古くからの忠実な部下。
過去の仕官先で、常に勘兵衛の影のように付き従って戦ってきた武士。
勘兵衛の顔つきだけで意図するところを理解し、即座に黙って行動を起こす。
前の仕官先大名家の城が焼け落ちた時に勘兵衛と生き別れるが、街で偶然に再会し、勘兵衛に着いていく事を決める。
「今度こそ、死ぬかも知れんぞ?」と問う勘兵衛に対し、ただ黙ってニヤリと笑みを浮かべ、それを返答に代えるシーンは印象深い。
まさに「無私の忠義」を体現したような武士である。
落武者として農民の竹槍に追われた経験があり、その事から農民に対して悪感情を漏らす事もあった。
4.平八
千秋実が演じた、愛想の良い浪人。
どんな苦境にあっても、決して深刻にならず、明るく人懐っこいため、侍たちのムードメーカー的な存在になっている。
道化を演じ、冗談が好きなためか、リーダーとして先導する事は不得意ながら、細かい事に良く気づく。
無銭飲食の代価として茶屋の裏で薪割りをしていたところを五郎兵衛にスカウトされる。
「戦に高く掲げるものが無いと寂しいからな」と言ってトレードマークとなる旗を作った。
武芸の腕は少し心もとないが、仲間を鼓舞した彼の存在は大きい。
5.久蔵
宮口精二が演じた、修行の旅を続ける凄腕の剣客。
無口で孤高。自身を求道家的な戒律で律し、非常にストイックで、「世の中で確実に信じられるのは自分の腕だけだ」と思っており、勘兵衛に「己の武芸を研ぎ澄ます事に凝り固まった男」と評される。
荒れ寺で決闘していたところが勘兵衛の目に留まり、声を掛けられる。一度は誘いを断り勘兵衛を落胆させているが、出発直前に心変わりして一行に参加する。
至近距離から放たれた矢を避けるほどの反射神経と、目にも止まらぬ剣さばき、そして野武士を夜襲して戻った後、何食わぬ顔で仮眠を取るなどの豪胆さを持ち合わせている。
だが勝四郎の恋慕を察知して彼を気遣うなど、意外にも根は優しい。
6.勝四郎
木村功が演じた、最年少の若武者。
裕福な武家の末息子だが、親に反発して家出。浪人していたところ勘兵衛と出会って彼に心服。弟子入りを頼み続けながら勘兵衛に着いていく。
所持している金も多いらしく、米を盗まれた農民が土下座して感謝するほどの金額をすんなりと提供していたりする。
非常に純粋で、武士の理想像が高いため、仲間たちから子供だと言われたり、勘兵衛に浪人の現実を突きつけられ、うろたえる事もある。
村で出会った農民の娘・志乃と互いに心惹かれ、身分違いの許されぬ恋に落ちる。
野武士との合戦では主に勘兵衛の指示を各持ち場へ伝える伝令役を担当。
経験不足のため、大きく貢献する事は出来ないが、決して足を引っ張ってもおらず、経験さえ積めば名将へと育つ可能性を秘める。
7.菊千代
三船敏郎が演じた、農民出身の“自称”侍。
野太刀のような巨大な長刀を背負い、浪人のように振舞っているが、実は農民の子で、幼い頃に野武士によって故郷の村を滅ぼされている経験を持つ。
菊千代という名前も、勘兵衛たちに侍だと信じさせるために没落武家の屋敷から盗んできた家系図から適当に選んで名乗った名前だが、仲間として受け入れられた後もその名前で定着してしまった。
酒好きで酒乱なため、酔っているところを平八にからかわれたりもした。
とは言え、「農民の狡猾さ」と「侍の横暴さ」という、双方の悪しき部分を自分の事のように語ったり、稲の刈り入れを率先して手伝ったりと、農民と侍という身分の違う存在の橋渡し役として貢献。
型破りで血がたぎった熱い男。野武士との合戦では、持ち前の豪腕で長刀を振り回す。