「償い」 矢口敦子
文庫本といえど、半日で読み終えてしまった。
443ページ。 決して薄くはない。
「人の肉体を殺したら罰せられるけれども、人の心を殺しても罰せられないんだとしたら、
あまりに不公平です」
解説にも引用されている文章だが、まさにこの物語のテーマであり、普遍の問いかけだろう。
人は見てくれの加害にのみ固執し、その実、内面のダメージについては無関心ではないだろうか。
推して図るべし。 という言葉があるが、日常生活において他人を傷つけてしまってはいまいか?
そんな事、聞いてまわる訳にはいかないだろう。
最近の人間は、自分の殻に閉じこもりがちになっているくせに、外部世界には攻撃的だ。
ヤドカリが長い毒針を持っているようなものだ。
自分の痛みには敏感だが、自分が人を傷つけたことについては鈍感になっている。
声高にそのことを主張する人間に比べ、この小説に登場する人物は誰もが優し過ぎる。
しかし、それは心の中で叫んでいるに他ならないからだ。
みんな叫んでいる。
とても秀逸な描写が、ページを捲る手を止めさせなかった。