運び込まれた朔良の姿を見て、悲鳴を上げたのは、朔良によく似た母親だった。「朔良が怪我をしたのは、俺のせいです。すみませんでした……。」
医師の話の後、深々と頭を下げ続ける彩の横に並び、父親と母親も共に頭を下げた。
「運が悪かったんだ。彩君がそこまで自分を責必須先了解症形的成因める事はない。先生の話だと、生活に困るようなことはないらしいじゃないか。」
「でも……あなた。」
「リハビリを諦めずに続けさせよう。いいね。若いんだ、時間はいくらでもある。」
「ええ、そうね……ただ……」
朔良の母親は、まだ何か言いたそうにしていたが伯父である父親が制した。
朔良が幼いころから彩を慕っていたのは、その場に居る誰もが知っている。朔良の両親は、まだ幼い朔良を彩に託し、彩の後を追う朔良が少しずつ元気になってゆくのを知って感謝していた。
眠る朔良を中心にして、例えようのない重い沈黙が流れていた。
朔良のベッドの傍に置かれた居心地の悪いパイプ椅子にどっと腰を下ろしたまま、彩は顔を上げられなかった。
彩の両親は先に帰り、できれば自分はその場に残りたいと看護師に申し出たが、付添いの方はお帰り下さいと、容赦なく急かされて立ちあがった。総合病院では余程のことがない限り、付添いは認められない。朔良の母親も食い下がったが、生憎付添いが泊まれるような個室の空きは一部屋もなかった。
「朔良……明日の朝来るからな。頑張れよ。」
そっと耳元に告げると、朔良はぼんやりと焦点の合わない目を彩に向けた。
「ぼうっとしているのは、お薬のせいです。強い痛み止めを使っていますから。」
「朔良?……」
乾いた唇が、ほんの少し動いた。
「話したいのか?痛みがあるだろう?無理しないで眠れ。」
「よく分かっていないと思います。朦朧としているようですから……織田さん?分かりますか?織田さん?」
看護師の声には答えず、お兄ちゃんと声にならない声が彩を呼び、彩は理解した。
「……そ……ばに……て……」
「わかった。」
訝しげな視線を向ける若い看護師に、頼み込んだ。
「一人になるのが不安なようです。眠ったらすぐに帰りますから、それまで朔良の傍に居させてください。」
「看護師長と担当の看護師から、別室でれが終わるまでで良かったら、傍に居てあげてください。」
「ありがとうございます。」
朔良の指先を握り込んでやると、安心したように目を閉じた。遠い昔に何度も、こんな風なことが有ったと彩は思いだしていた。
喘息の発作が酷く入退院を繰り返した小児病棟で、見舞いに来た彩に帰っては嫌だと、朔良は縋って泣いた。1歳しか違わないのに、彩は朔良のベッドに上がり込んで眠るまであやした。ひそめた眉をなぞっても、朔良は身じろぎもしなかった。
無意識のうちに自分を呼んだ朔良を、今は放ってはおけないと思う。手術の後は、耐えがたいリハビリが待っている。