茹だるような7月の殺人日光がアスファルトに落ちた焼き栗の殻を更に焼き尽くす中、
僕はガラス越しの小籠包と同じくらいに蒸されながら気晴らしに横浜中華街を歩いていた。
蒸し無職である。
空には牛乳を飲んだコップを洗っている最中の薄い液体のような白い雲が少し伸びている以外に日光を遮るものは何もない。
"雲ひとつ無い"という表現を避けるためだけに置かれたようなわざとらしい快晴だった。
とうの昔に飲み干した"いろはす"が手の中でぺしゃんこにくたびれている。
水分が足りていない。
小籠包を蒸す蒸気と、日中からイチャつくカップルの熱気。
怪しいお土産屋に呼び込む怒気や怖気に囲まれ、気が狂う直前だった。
頭の中がぐるぐるしている。
土産屋に並ぶ干乾びたイチゴ飴が5分後の僕を暗示しているようだった。
横浜スタジアムを背に「玄武門」と書かれた大きな鳥居から入り、ひたすらまっすぐに歩き、
右に曲がって左に曲がって右往左往していたところで、何度か見かけたことがある謎の神社についた。
中華街に来るたびに俗物的な香りのする神社のような物があるとは思っていたが、中に入った経験はなかった。
最近どうも自分の力の及ばない範疇で運に恵まれていないため、怪レいネ申ネ土でも良いから縋りたい気分だった。
なんで寺院に機械があんだよ!
教えはどうなってんだ教えは
金取んのかよ!?くそったれ!
(入場料500円・お線香5本付き)
神社の謎が解明出来たらさっさと帰るつもりでいたが、一通り参拝しても結局は何が祀られているのか謎のままだった。お作法に乗っ取り3礼してお線香をぶっ刺し、猫の健康と猛烈な金運を祈って社を後にした。
喉が乾いて仕方がなかったが、水分補給にタピオカミルクティーを飲む気にはなれない。
もう少しだけ歩いて安く買える飲み物を探そう。
ところで、道行く人々やさっきの神社にいた人たちは神を信じているのだろうか?
僕はもちろん神など信じていない。居ないと断言できるレベルだ。
神や仏がいるならば、歩く性善説のような僕がこんな人生であるのは説明がつかないし、
客観的に見て僕より不幸な人々がこんなにも救われていないのもおかしい。
少なくとも人間が考えているような、人間に救いや益をもたらすものとしては存在していないだろう。
それはそれとして、だ。
僕はスピリチュアル的な"目に見えない何か"は存在してもおかしくないと思っている。
無論存在すると思っている訳では無いが、目に見えない人の祈りや願いのような何か、思念のような何か、或いは行動そのものが、二重スリット実験のように観測したか・観測していないかのミクロな世界で何らかの影響を及ぼしている可能性はあるのではないかと思っている。
人々が神や仏だと扱い、祈りや願いを捧げているのであれば、不完全ながらもそれ相応の機能を本当に持ち得ている可能性は0ではないという厨二チックな考えだ。
だから、神社仏閣に行ったとして、礼儀作法に法って参拝をするし、なんならお守りも買う。
人が祈るものは仏壇だろうが十字架だろうが、よくわからん線香だろうが折り鶴だろうが丁寧に扱おうと心がけている。
では、完全にスピリチュアルの領域である占いを信じるか?
僕は結構"信じたいと思っている"派だ。
僕は小さい頃占いが好きだった。
朝のニュース番組でやるような12星座占いも、血液型占いも好きだった。
何の目安もない1日に針金で出来たような細いレールを敷いてくれるような気がするからだ。
小学生の頃は朝のニュースの占いコーナーのラッキーカラーに合わせて、
筆箱に入れる消しゴムの色を変えたりしたような時期もあった。
それらのチープな占いも本当に信じれば(思い込めば)それなりの効果を持ち得るのではないかと信じていた時期もあった。
つまり、怪しい神社だろうが占いだろうが、
"皆がアテにするスピリチュアル的なモノなら、多少何らかのパワーは本当にある気がする"
ということだ。
特に、長年体系的に継承されて続いている占星術やタロット・手相のような本格的な占いであれば、本当になんらかの真理を指してくれることもあるのではないか?と思う。
突然だが、僕の話をしよう。
無論、ここまでも僕の話ではあったが。
僕はほぼ無職だ、つまりお金に余裕がない。
お金に余裕がないということは、1000円の持つ価値が非常に高く、
僕の持つ1000円には一般的な同年代の男性が払う1000円とは比べ物にならない量の祈り、願い、そして呪いが込められている。
カードとしてのレアリティが違うんだよレアリティが。僕の1000円はまだキラキラしている。
では、その祈りや願いの籠もった魂の1000円で本格的な占いを受ければ、森羅万象を正しく占ってくれるのではないだろうか・・・?
・・・?
何を考えているんだ僕は、暑さで頭がやられている。
少し炎天下を歩きすぎたみたいだ。
どこか涼める所に座ってひと休みしたほうが良い。
ちょうど目の前にあるではないか。
日差しが当たらず、風通しも良く座れそうな
手相占い屋が。
無職、占いを受ける!
思い立ったが吉日、手相占い1100円の看板が立つお土産屋に足を踏み入れた。
奥の方に歩いていくと「占いですか~?」
と受付のおばさんに声をかけられ、お土産屋に併設された占いスペースに案内された。
席に座ると、もっともらしい格好をしたお婆さん占い師が人好きのする笑顔で
手相ですか?と話かけてきた。手相の他にもタロットや占星術もあるらしい。
「手相でおねがいします。」
と僕が言うと、お婆さん占い師は
「では両手を開いてこちらに向けてください。」
と言った。
お婆さん占い師は耳かきのような棒で僕の手のひらをなぞりつつ、
淡々とそこに書かれている事実だけを述べるように、1つ1つ手相の線をなぞりながら箇条書き的に解説を入れた。

「偏屈で頑固、協調性がない、1人でやる仕事に向いている」
「KY線があるね、空気が読めない人が多い」
「でもコミュニケーション能力自体は高い」
「金運自体はちゃんとあるね、でもお金の使い方は微妙」
「親指に仏眼があって、自分の周囲のことであれば真理を見通す能力がある」
「生命線は平均寿命までは生きて、歳を取るごとに活発になる。良い線だね」
「でもお腹から下の健康が弱いね。男性だけど歳取ったらお腹冷やしたりしないように。」
「結婚はするなら31歳ぐらいだけどあなた自体にする気はあんまないね」
そして、そこまで一気に語られた上で、一息ついて
「ここからは特に特徴的な線なんだけどね?」
と少し落ち着いた口調で僕に確認を取るようにゆっくりと続きを話し始めた。
「くっきりとエロ線がある、モテようとすればめっちゃモテるけど自分の好きな人には好かれないね。どうでもいい人にはとことん好かれるタイプ」
「エロ線・・・?」
「KY線と合わせて芸能人に多いタイプだね。あと薬指に比べて小指が短い上に、小指が曲がっている。喋れば喋るほど余計なことを言う。」
「はい、それは、間違いなく。(スマホ指では🤔?)」
「最後に全体的になんだけど、男性にしては"線の濃さ"そのものが薄い。必要なものが全て揃っているのに意思が弱すぎる。」
「・・・・・・そうですか😇」
「自分から行動すれば何もかも上手く行くタイプだけど、自分から行動する意思がない感じかね」
「なるほど😑」
「まぁ自分で何かしら行動すればうまく行ってことよ!頑張ってね!」
そんなこんなで手相占いは終了し、占い賃1100円を払って店を出た。
悪くない時間だった。
当たっていると思い込めばめちゃんこ当たっているような気がしたが、
バーナム効果であると思えば全然そうだと言えるような感じだった。
帰るか・・・と幾分スッキリした気分でふらふら水分を求めて歩いていると、
タイムセールで手相占い550円の占い屋があった。
たった今1100円で手相占いを受けたばかりなのに少し損をした気分だった。
ここで僕の悪い癖が出た。
「待てよ・・・別の手相占い屋に行ったら別のこと言われンじゃねェか?🤔」
近場の自販機で水を買い、水分補給をして冷静になることにした。
(いやいや手相は体系的なモノだから言われることは同じだろ・・・)と。
冷静になった僕は余計タチが悪く、分かりきっているのに好奇心に勝つことができないのだ!
気がつくと僕は手相占い550円の占い屋に居た。
手相占い屋のハシゴである。
居酒屋のハシゴもしたことないのに。
先程の占い屋と同じように受付で案内され、席に座ると、早速独特な喋り方をするおばさん占い師に話しかけられた。
胡散臭さと理知的さを兼ね備えたメガネのおばさんだった。
なんとなく地域史とか調べていそうな雰囲気を醸し出していた。
「手相占いよね?男の子が1人で来るなんて珍しいわ。占いは今日が初めて?」
「はい😁!(半分大嘘)」
「手相占いは550円頂くんだけど、私タロットと算命学も得意でね。こっちは高くて3300円かかるんだけど、どっちかやるなら手相はタダで見るわ。」
なるほどそう来たか、手相550円で釣って本命の高い占いをオススメする手口か・・・
俺はその手には乗らない、強気で押し付けてくるならラップバトルだ・・・
「全然強制はしないわ!でも興味があったら言ってね、私得意よ。じゃあ早速手相を見ていくわ。」
「いえ、算命学?もおねがいします!😤」
僕は押し付けがましくないセールスには弱かったのだ!
"「金運自体はちゃんとあるね、でもお金の使い方は微妙」"
さっきのお婆さん占い師の言葉が一瞬頭をよぎったが、0.2秒後には額の汗と共に蒸発していた。
真夏の太陽と聞き慣れない単語の好奇心が僕の脳を沸騰させたのが悪い。
全部夏のせいだ。
「では早速手相を見させて頂くわ。利き手はどっち?」
「りょ、両方・・・」
先程と異なり、利き手を聞かれたが、交差効きなので曖昧に答えることになった。
「そういう人もいるわよね!器用なのかしら」
お婆さん占い師と同じような謎の棒を取り出し、僕の手の線をなぞりながら
こちらも1つ1つ線をなぞりながら箇条書きで読み上げるように手相鑑定を始めた。
コミュ力はあって、KY線でエロ線があって、芸能人に多いタイプで、歳を取るほど活発に・・・と
9割まったく同じことを言われた。
結婚するなら年齢は31か32とこれまた数字も同じだったので、
本当に細かく体系化されているんだなと思った。
手相の長さはあくまで補助に過ぎず、僕くらいの年齢の人で、これくらいの線の長さでこれくらい角度で、黒色の服を着ていたらこの数字!と決まっているのかな?と邪推した。
病院に行ったけれどいまいち納得できず、セカンドオピニオンを受けたら医者に全く同じことを言われた気分だった。
手相が終わると次は算命学とやらの占いが始まった。
生年月日を聞かれたので答えると、紙にマルバツゲームのようなマス目を書いていった。
「"仕事"と"恋愛"ならどっちのほうが詳しく知りたい?」
その2択なのか・・・金運とか健康運とか無いのか・・・
無論、絶対にしたくない事と特に理由なくしてこなかった事なら後者のほうがまだ知りたい。
「じゃあ恋愛で」
「わかりました、では・・・」
と言うと、電話帳のような太いファイルを取り出し、先程のマス目の中に謎の漢字を書き込んでいった。
「まず、外国人やその血の人との恋愛がとても向いているわ。」
「外国人」
「それから、29歳までに恋人にするならお淑やかで頭の良い女性よ。」
「頭の良いお淑やかな外国人またはその血統」
この歳になってラノベ展開か!?
「そこまで絞らないで良いわ。モテ期は2020年~2023年、1年飛ばして2025年なんだけど、モテるでしょ?」
「や🖐全然🖐」
「そ、そう・・・でもそういう"星"が出ているわ。どんな女性が好み?」
「あざとい女(断言)」
「そ、そうなのね・・・あなたは"龍"の星なんだけど、31歳か32歳で同じく"龍"のあなた好みの辰年の子がふらっと現れるわね。」
「僕は"龍"・・・龍の星の辰年・・・ドラゴン女が?」
「その子の好意を受け取るかどうかはあなた次第。あと29歳までは結婚はやめといたほうが良いと思うわね。今彼女とかいるの?」
「今はいないです(即答)(条件反射)」
「じゃあ今から2年は"遊び"の年にすると良いわね、遊びだと割り切ってる関係ならうまくいくのね。でも結婚するとしたらその相手は31歳か32歳で現れる"龍"の子で29歳までに会う子とは違うわ。」
「そうですか」
「あと恋愛よりは詳しく調べてないけど仕事は」
「シゴトッ❣❓なるほど、仕事ですか😑なるほどですね😁わかりました😤」
「・・・?基本的に"龍"は遷ろうものなので、やりたいと思ったことをやれば良いわ。今の仕事に不満があるなら2年以内に変えるのがオススメ。今の仕事に不満はある?」
「フマン...?🤔ヤ🖐フマンはナイデスネ(笑)」
「そう。でも不満を感じたらすぐに変えると良いわ。でも今のことを2年続けていても転職とか良い方向に行くのね。」
「ナルホド~笑😃」
「あと、これは手相を補強する感じになるけど、晩年になるにつれどんどん運がよくなるの。素敵に歳を重ねられるわ。」
「それは良かった(本当に良かった)」
「とにかく29歳までは女の子と遊びまくれば良いわ。32歳までには結婚する気があるなら結婚するわね。以上で終わりね。」
「そうですか、ありがとうございました。」
こんな感じの会話を行いつつ紙に書き込みながら約20分解説を行われた。
クーラーの効いた館でだいぶ涼めたので、帰り道に歩きながら肉まんを食べて中華街を出た。肉まんは真夏の炎天下に食べる物ではないと学んだ。
わかりきっては居たけれど、手相占い屋をハシゴして、"占いは体系的なもの"と身をもって体験したのは一生擦れる話のネタになるな・・・と、ある種のお値段以上を感じた。
無論、言われたことを信じるわけでも全く信じないわけでもないが、無意味で有意義な無駄遣いをしたいという発作のような欲求は十分に満たすことができたし、何らかの励ましになったような気はする。
それにしても
"2年間は女の子たちと遊びまくって31歳の時に会う子に備えて経験を積むと良い"か・・・
女の子と遊びまくる練習・・・
女の子・・・練習・・・遊び・・・
よし、次にやるゲームは決まったな!!!
僕はおそらく、中華街のよく当たる占いを外す男になるだろう。
もし当たったらその時はあざとい女を連れて、1人では暑くて持て余す肉まんを炎天下で分け合おう。
「実は4年前からこの肉まんを君と食べる運命だったんだ。」
↑(RADWINPSの歌詞)
おまけ・参考
謎の神社は横浜媽祖廟(まそびょう)という神道系の神社らしい。
手相の棒はかんざしのような物あるいはかんざしそのものであるらしい。
実は両店舗とも事前に「占い途中とか結果とか写真を撮ったりネットに上げたりしても良いですか?」と聞いたら「ぜひどうぞ!手相見てるポーズ取ります?」とめちゃくちゃ快く観光客慣れした対応をしてくれた。サービス精神最高でした。











