敬愛する沢木耕太郎の“深夜特急“風の、妙に落ち着く湿っぽいゲストルームで夕食まで時間を潰す。

窓の外はいつの間にか南国のスコールとなっている。


翌日のイルカと泳ぐ&シュノーケリングツアー(もちろんひとりで参加)に備えてGoproと着替えなどを小振りなボディバッグに詰め込んだりの準備を終えると手持ち無沙汰となった。

外に出かけようにも、ドアの外はANAのマイレージカード大のゴキブリと大量のヤスデの憩いの場になっているから用もなくドアを開けるのは避けたいし、相変わらずトロピカルな葉っぱを雨がバシバシと叩くような猛烈な雨が降っているからどの道外には出られないのだが。


いくら本土から離れているとはいえ、ここは日本。

テレビは日本のものが映るはずなので、リモコンで電源をつける。

地方に行くと東京とはチャンネル構成が異なり、延々と時代劇を放送していたりアットホームなローカル番組が放送されていたりするが果たして小笠原はどうだろうか?

気になってチャンネルを次々に変えてみる。

1、2、4、5、8・・・

大田区と同じ番組、同じチャンネル構成だった。

それはそうだ、だってここも東京都なのだから。


テレビをBGMにしつつ、小笠原のガイドブックのページを繰っていたがある名前が耳に入って画面に目を移した。

そこにはなぜか、以前LAで知り合ったTくんがテレビの中のひな壇に座ってトークを繰り広げていた。

アメリカで芸能活動をしていて、近年日本の映画やドラマにも出演していたのは知っていたが国民的人気のバラエティー番組に出ているとは驚きだった。

「日本帰国時に、予定が合えばご飯でも行けたらいいね」

そんな軽いやり取りをしていた彼が、なんだか遠い存在になってしまった。


無職になって本土から1000km離れた所で知人の活躍を目の当たりにして、日本社会からも離れて世の中を漂流しているかのような感じがした。

生暖かい呑気な空気に飲まれつつ、冷たく不安を掻き立てる海水に浮かび漂っている感覚。


わたしはこれからどこに行ってどうなるんだろう・・・

と思ったが、次の会社からも内定もらっているし、ここは東京だと我に帰って画面の中の知人の番組を見続けた。




沢木耕太郎の「深夜特急」や小田実の「なんでも見てやろう」、最近だと下川裕治の「ディープすぎる〜」シリーズなどの紀行小説を愛読している。

それら作中に出てくる外国の“ワイルド“な宿の描写が好きなポイントの一つで、どんな部屋か想像しながら読むのが楽しい。


今まで“ワイルド“ではない、比較的綺麗な宿に泊まることしかなたったのである種の憧れと興味がその手の宿にあった。


今回の宿は本で読んできた“ワイルド“な宿に近いものだった。本で読んできたような宿に泊まれる。ワクワクとちょっとの不安が止まらない。



〈宿の前に建つ看板〉


部屋数5部屋ほどのこじんまりとした宿。

一昔前のアパートのように外廊下があり、部屋が横一列に並ぶ形となっていた。


外廊下には、南の島の恵みなのか小さなムカデのような見慣れない虫(ヤスデというらしい)の住処のようでいたるところで這い回っている。

それに混じってクレジットカードくらいの大きさの立派なゴキブリが数匹動き回っていた。


アウトドア派だが、虫は苦手である。特にクモやムカデ、ヤスデなど脚がなんか凄いやつとゴキブリは本当に無理だ。

そんな虫たちが外廊下の床・天井・壁の360度サラウンドで蠢いている。自室のドアノブにも数名いる。


声にならない声をあげそうになりながら、急いで自室に滑り込んだ。ドアを開けた途端に部屋に入り込んできそうで、それを想像しただけでゾクゾクした。



部屋はシングルベッドが2台入った、カーペット敷きのひとり旅にとってはゆとりのあるサイズのものだった。

湿度の影響か、床のカーペットが少し湿っている気がする。

外廊下の虫たちが部屋には全く居なかったので、旅装を解きベッドに横になった。


紀行小説の作者たちが泊まったワイルドな宿に、わたしも今日から泊まると思うとなんだか嬉しくなり、ひとりニヤニヤが止まらなかった。




グラベルロードバイク“トップストーン”を手に入れて2日目。

チェーンリングの歪みが発覚・・・



〈ペダルもSHIMANO〉


近所の河川敷を走った帰り道(前回のブログ)に断続的に出る異音に気づいて、よく見たらテーンリングがウネウネと歪んでいた。

流石に100kmも走っていない、ましてや納車2日目なので、買ったショップに連絡。


メーカー補償の対象で、同じ部品なら無償で交換してくれることになったが、このご時世その部品の納期が未定。

歯車の歯の数が変わってもよければすぐに対応してくれるらしいが、変わることによってギアが重くなってしまうとの事でそれは避けたい。



悩んだ末に、数ヶ月以内に入荷する「SHIMANO」の部品を手配しつつ、ショップに持ち込んで手作業でできる限り歪みを直してもらうこととなった。

もともと前後の変速機と後ろのスプロケット(歯車)はSHIMANOのグラベルロードモデル「GRX」がついていて、今回歪んでたチェーンリングとクランク(ペダルがついている部分)とBB(表からは見えない大事なトコ)は違うメーカーだったから、ゆくゆくは同じSHIMANO GRXにするつもりだったからこれを機に交換しちゃえってことで。


安心と信頼のSHIMANO

モンベルと同じくらい安心



無事部品の手配と、ショップのメカニックさんによる鍛治作業のような歪み直しを経てなんとか自走できることになったトップストーンを駆って、実家近くの荒川サイクリングロードの秋ヶ瀬公園より上流のセクションを軽く走ることにした。



ちょうど曼珠沙華が見頃だったようで、平日のわりには多くの人がサイクリングや散歩を楽しんでいた。


〈花に見惚れて自転車を止めるのは、歳を取った証拠かな〉


上尾を過ぎてさらに北上すると、河川敷内の森を散策できる道があったが、あまり整備されていないのかわからないが、かえって冒険感が増して最高に楽しい道を発見。

泥でヌタヌタな箇所はあったが、比較的走りやすくて小一時間ほど走り回った。


〈誰もいない森をひた走る〉



オンロードとちょっとしたオフロードを楽しめる荒川サイクリングロードの上流セクション、いいところを見つけました。



〈気づけばこんなことになってた〉




サメバーガーでお腹を満たした後、宿に入るにはまだ早い時間帯だったので再び原付を駆って島を回ることにした。


父島の外周をぐるっと巡る道路はなく、二見港のある西側の海沿いから中央の山間部を抜ける240号線が島全体を原付で回れる道だ。


山間部に入ると時々見られる南国な木以外は丹沢やその辺りの山道とそう変わらない、ただ舗装が綺麗で非常に走りやすかった。



山道をちょうど半分ほど進んだところに「JAXA小笠原追跡所」という研究施設がある。

鬱蒼とした山の中に突如現れる巨大な望遠鏡が、なんとかレンジャーの秘密基地感を醸し出している。



〈外についている階段から望遠鏡の大きさがわかるかな?〉


国内でこの大きさの望遠鏡を間近で見られるのはかなり珍しいのではないか?


どうやら時々この望遠鏡が、観測対象を「追跡」するために向きを変えるらしいので、しばらくぼんやりとその時を待っていた。



その時背後の茂みから物音がした。

職員さんかな?と思い、初めは気にしていなかったが、茂みの中で少し動いては立ち止まり、また動いては立ち止まるような足音を不思議に思い振りかえると、ヤギが数頭ムシャムシャと草を食んでいた。



〈本格的なヤギである〉


宇宙研究の最先端の施設の横でひたすら草を食べるヤギに見つめられる不思議な状況。


「そんなに待ってても、その望遠鏡今日は動かないよ」


そんなふうに言われているような気がした。


もう5分ほど望遠鏡を観察していると、ヤギは立ち去っていた。


望遠鏡は結局動かなかった。


〈望遠鏡が見つめる先には何があるのか?〉



望遠鏡を後にした後、明日歩くトレイルコースの入り口となる小港海岸方面へ原付を走らせる。

翌日は小笠原の山と海を同時に楽しむトレッキング&海水浴を企てていた。もちろんひとりで。


小港海岸の入り口で240号線は完全に行き止まりとなる。

位置だけ確認できればよかったので、そのまま宿に向かうことにする。


途中、父島で採れたコーヒー豆から淹れたコーヒーを飲ませてくれるカフェがあった。

東京都産のコーヒー豆というのが驚きである。



〈味は普通の美味しいコーヒー。有名なのか、久々に3人以上の人を見た〉


〈ぶっちゃけお高いコーヒーだが、小笠原の森の中で飲むことに価値がある〉


父島到着初期日で幹線道路沿いは結構回り切ることができ、ようやく宿に到着。

海沿いの高台に建つ、こじんまりとして味のある外観だった。

納車、そして地獄の初ライドを終えた翌日。

早くもグラベルデビュー。




家から10分でこんな道に出られる。相模原市は素敵なところだと思った。


慣れない乗車ポジションとドロップハンドルにギクシャクしながらも爽快に走ることができた。

マウンテンバイクと異なりサスペンションがない分、硬い乗り味になるがこれはタイヤの空気圧を調整してなんとか走りやすくできるはず。


ロードバイクのスピードと、マウンテンバイクの走破性を兼ね備えた本当にいいバイクだと実感。




しかし、この日以降数々の災難に見舞われることになる・・・