「まったくなんなんだ今日は。ドイツでの出来事の会議をしていたと思ったら警備を殺して張本人が現れた。こいつがいなくなったと思ったら今度は薄汚い浮浪者がこの場にやってきて言う事言って突然消える。どうなっているのだ。私は夢でも見ているのか。」

「落ち着きなさい将軍。まずはあのジークフリードと名乗った男の身元確認と、ニーデルラントという土地について調べることにしましょう。」

「しかしイクセル。」

「将軍。私と君が旧知の仲であることは皆も知っているだろうが場所をわきまえなさい。」

「・・・失礼しました。大統領。」

「ではフランツ将軍。万が一に備えてすぐに軍を動かせるようにしてください。セルゲイ外務大臣はこの事を近隣諸国に伝達を。他のものは彼の言っていたグンテル、ハゲネの子孫と思しき人物のピックアップをお願いします。このことに意義のある者は・・・居ませんね。では行動に移ってください。」

そう言って席を立ったイクセルことイクセル・トッド=ブルニーの元に一人の女性議員が駆け寄ってきた。

「大統領。ひとつよろしいでしょうか」

「貴女は・・・。」

スタイルのいいその身体をスーツに包み、スッと立つ姿はモデルと見間違いそうになるが、実際彼女は議員になる前までは現役のモデルだった。

と言っても彼女が入った事務所がすぐに倒産し、現役時代の彼女を知る者は少ない。

だがその整った顔立ちや、見事なプロポーションを持つ彼女が連邦議員に当選したことで一時期話題にもなった。

「カトリーヌ・ガイガーです。」

「カトりーヌ。歩きながら話そう。で、話というのは何だ。」

「はい。先ほどジークフリードという男が指定した地。ニーデルラントの事です。ニーデルラントという国は過去に実在しています。」

「なに。それは本当か。」

急に立ち止まって悪魔のような剣幕で迫られたカトリーヌは、一歩後ろの下がりながらも言葉を続けた。

「はい。ニーデルラントはオランダ、ベルギー、ルクセンブルクのある低地の地域がそう呼ばれていました。ジークフリードの故郷サンテンは、現在のオランダのザンテンに当たります。」

「確証はあるのか。」

「はい。父がその手の話に詳しく私も幼いころから神話や英雄叙事詩というものを聞かされていました。その事があって過去の文献を調べることがよくあったのですが、何百年も前にニーデルラントという国があったという記事を読んだ覚えがあります。しかしひとつわからないのがなぜ彼がここへ来たかという事です。グンテル達ブルゴント族の首都はウォルムスのはずなのですが。」

「おおかた道にでも迷ったのだろう。それよりもこのことをフランツ将軍とイクセル大臣に伝えるんだ。奴がいると言っていたニーデルラントの城を包囲して、各国と協力して拘束できるようするんだ。」

「わかりました」

こうして愚かな現代人と神話の時代に生きた英雄との戦いが始まった。

ジークフリード以外の人間で、人類の滅亡を望んでいるものがいるとは知らずに。

「まずは皆さまにお聞きしたいことがございます。貴方方は『神』というものが存在するとお思いでしょうか。」

「何を言い出すかと思えば神か。そんなものがいるなら、この状況をどうにかしてもらいたいものだ。むしろどうにかしてくれるのであれば悪魔でも構わないよ。」

身体のひときわ大きい顎に髭を蓄えた男がそう叫ぶように言った。

「では神など存在せぬ。そうお考えなのですね。」

「ああそうだ。だいたいこの質問と、先の出来事と何の関係があるというのだ。だいいち貴様はあの男がいなくなった途端に現れた。あの男が我々を笑うために貴様を残して消えたのだろう。そうであろう。何か言ったらどうだ。」

「おっしゃることはごもっとも。しかしあの男と直接の関係はございません。そして貴方方を陥れるために私はここにいるのではなく、勝利に導くためにここにいるのです。」

「ふん。信じられんな。」

「信じる信じないはこの際どうでもいいでしょう。とにかく私の話をお聞きください。私は先ほど『神』は居るかという質問をし、貴方方は居ないとお答えになった。では真実をお話しましょう。神は居ります。しかも神は人間の中に紛れ込んでおり、見分けがつかないでしょう。そして神は世界中に居ります。貴方方も神話は聞いたことがございましょう。ギリシア神話、北欧神話、ケルト神話、日本神話、アステカ神話、アラビア神話、ゲルマン神話、そして旧約聖書。この中では一番旧約聖書が世界にれり渡っておりましょう。なぜこのように多くの神話があると存在するとお思いでしょうか。」

「それは各地域、年代の人々の生活や環境がそうした物語を作り出したのだろう。」

「貴方はこれが本当にただの物語だとお考えですか。」

「そう言ったつもりだが、聞き取れなかったかな。」

「それは失礼いたしました。しかしこれはただの物語ではございません。これはこの世界の過去であり、現在であり、そして未来でもあるのです。つまり神話とは世界の記録であり、予言なのでございます。これに書かれていいる記録は実際に起こった出来事。予言は起こらなければならない出来事なのでございます。しかし一人の男によってそのルールは崩されようとしているのです。そうあのジークフリードという男にです。彼が生まれ、没した地はヨーロッパ、北欧でございます。故に彼の魂の管理は北欧の神々、オーディン達の手によって行われいました。しかし彼はヘル、死者の国を手中に収めた。そしてついに復讐のために地上に上ってきたのでございます。もしこのまま事が進めば人間がこの世から消えるだけでなく、世界そのものが消滅することになってしまいます。それだけななんとしても防がなくはならない。それゆえ彼を何としても元のあるべき場所に戻さなくてならないのです。しかしそれができるのは貴方がそれなさなくてはなりません。神は直接地上の出来事に手を出すことはできませぬので。」

「ハール。お前の話してくれた内容はとても面白いものだった。だが信じろという事が無理な話なのだよ。あまりにも非現実すぎる。これは本やテレビゲームではないのだ。そのような状況で素性の知れぬ者の話を鵜呑みになど出来ない。私たちはしっかりと教育を受けているのでね。」

「左様でございますか。ではもう何も言う事はございません。これで退散させていただきます。しかしまた私の助言が必要な時はいつでもお呼びください。どこであろうともすぐに参上いたしましょう。」

そう老人が言うと持っていた杖で床を一突きした。

すると外で何かが爆発するような轟音が響き割った。

議場にいた議員達が皆驚いてそちらを見ている間に老人の姿は消えていて。

議場のすぐ目の前でその轟音が鳴ったいうのに何も壊れていなかったそうだ。

後に、その轟音が巨大な雷であったことが分かった。

「あれはなんなんだ。どこから入ってきた。だいいち警備はどうした。いったい何をやっているのだ。これだは雇った意味がないではないか。」

「ジークフリードと言ったかあの男は。わざわざ英雄の名など語りよって。馬鹿馬鹿しい。何がしたいのだ。」

「大変です。」

そこに一人の警備員が現れた。

「外の警備の者たちがが皆、死んでいます。どの死体も鋭利な刃物で真っ二つにされています。」

「それではお前はどうして生きている。」

「自分は監視カメラのチェックをしていました。すると一台のカメラが真っ赤になったので不思議に思っていると、次々と仲間がぼろ布に身を包んだ男に切られてい行ったんです。私は恐ろしくなり部屋から出ることができませんでした。一緒にいた2人もその場から動けなくなっていました。しばらくするとまた同じ男がこの議場を出て行くのが監視カメラでわかったのでここに来たのです。彼はいったい何者なのですか。」

「私たちが知っているとでも思うのか。もし知っているとしたらアルカイダか中国であろうな。どうせ彼奴らが送り込んだ暗殺者だ。」

「そう思うのは貴方方の勝手だがそれは違います。」

そう話し始めたのはみすぼらしい恰好をし、杖を持った隻眼の老人だった。

議場にいた人間は皆先ほどのことがあったため血の気が引いたように真っ青になり、水を打ったように静まり返っていた。

その緊迫した中を老人は悠然と進んで行った。

「何をそれほど恐れているのですか。信じろとは言いませぬが、先ほどの男のように愚かな事はしませんぞ。あの男のことでわからない事だらけで困られているとお見受けします。私が答えられる範囲でお答えしましょう。」

「では質問する前に貴方のことを聞きたい。貴方は誰だ。どうやってここに入ってきた。」

「これは失礼。では私のことはハールとお呼びください。ここへは入り口から入ってまいりました。何せ警備されてた方はとても動ける状態ではなかったので。」

「ではハール。貴方に聞こう。彼は何者だ。」

「彼は自らも名乗っていたように、ニーデルラントの王子ジークフリードで間違いございません。彼はニーベルングの宝を守る邪竜ファフニールとの戦いで、心臓への一突きで勝つことができました。。そのさい全身に血を浴び、それ以降刃の通らない体となっています。また、彼の師のレギンにファフニールの心臓を振るう舞う際に指に油が飛び、それを舐めたことから四十雀の言葉を理解できるようになりました。」

「ではハール。貴方に聞こう。彼はどこから来た。」

「彼はヘルの支配する死者の国、ヘルからまいりました。愚かなことに神々が若くいるために必要な金のリンゴを手に持って。」

「ではハール。貴方に聞こう。彼の目的は何だ。」

「彼の目的は復讐。己を殺めたものと、彼の妻クリエムヒルトを苦しめた者の血縁者の血を絶やすことでございます。」

「ではハール。貴方に聞こう。仮に彼と戦いになったとして、私たちは彼に勝てるだろうか。」

「真っ向から戦えばまず勝つことは不可能でしょう。しかし勝つ方法はあります。全身にファフニールの血を浴びた際に背中の一点、肩甲骨の間に菩提樹の葉が落ちたことからそこだけ血を浴びることができず、常人と変わりありません。。」

「ではハール。貴方に聞こう。彼の持っていた見事な剣は何だ。」

「あれはバルムンク、もしくはグラムと呼ばれる剣でございます。この剣は彼の父がオーディンから授かった剣を打ち直したものでございます。恐ろしく切れ味が良いためそこらのものならば簡単に切り裂くでしょう。」

「ではハール。貴方に聞こう。これの居城はどこにある。」

「それは心配なさらずとも簡単に行くことができます。あの扉の脇に彼の従者が立っております。準備が整い次第彼に話しかければ連れて行ってくれるでしょう。聞きたいことはこれで全てでしょうか。ではなぜ私がここに来たかをお話しましょう。」

たたずまいを正して彼は話し始めた。


「あれから半年か。」

あの虐殺から半年前たった今ドイツ政府は壊滅し、ドイツという国が消えた。

ストックホルムの虐殺の1週間後だった。

彼が再び現れたのはスイスの首都ベルン。

しかもストックホルムの虐殺についての会議を行っている議場に、永年通いなれた、老議員のようにゆったりと、しかし誰も寄せ付けない空気を漂わせて現れた。

今まで討論に次ぐ討論で騒がしかった議場が、彼の登場とともに水を打ったかのように静まり返っている。

そして誰もが恐怖していた。

今しがた行っていたのは誰でもない彼のこと。

ストックホルムの街や警察車両に搭載された防犯カメラの映像は、この場にいる議員全員がすでにみている。

その映像の中で銃弾を避けもせずに真正面から受けても平然とし、市民を肉塊へと変えていった張本人が目の前にいるのだ。

「どうしたというのだ、この街は。」

彼はそう話し始めた。

「森はどうした。わが友の城はどうした。なぜない。汝らが壊したのか。だがそれも無理もない。私が死んですでに数千年はたっているはずだ。人は多くを産み、また多くを破壊する。そしてのその中で成長もする。すばらしいことだ。だが私にはどうしても許せないことがある。それはわが愛しき妻クリエムヒルトのこと。友にして愛すべき婦人の兄である憎むべき怨敵グンテル。そして私に直接手を下し、己が欲のために私の遺産をラインの底に沈め妻を苦しめたハゲネ。この二人の欲に塗れた手により私は葬られ、妻を苦しめ悲しませることになった。故にグンテル、ハゲネの子孫に私は復讐する。自身に自覚がなくともその場で死よりもむごい仕打ちをくれてやろう。またその者と苦楽を共にする者。庇う者の血縁者も同様に処刑を行う。我が名はジークフリート。ニーデルラントの王子にしてニーベルングの財宝の所持者なり。かつては英雄と呼ばれた私だが、そのような肩書はもはや不要。汝らを駆逐するためにこの世に戻ってきた。一週間の猶予を与えよう。それまでにグンテル、ハゲネの子孫全員をニーデルラントの私の居城に集めろ。もしそれがかなわぬ場合は宣戦布告と受け止め、先日立ち寄った街のようにライン川周辺、そしてニーデルラント領内を取り戻してくれよう。」

それだけいうと彼はその場を去って行った。


2017年。12月23日。

「2100時。異常なしっと。」

ここは、3ヶ月新たにライン川河畔にできたハイネス陸軍基地。数年前まではこの周辺も街があり、人でにぎわい、活気がある場所だった。

今や世界は一人の男におびえている。

どこから来たのか、何者なのかがまるでわからない。

ただ一つだけわかることは彼には何も通じないという事。

昼下がりのストックホルムに古めかしいボロボロの衣装と、その服とは不釣り合いなほど見事な装飾の施された剣を腰に下げていた。

彼は街にやってきたかと思うと突然剣を抜き、市民を惨殺していった。

当然警察も動いたが、彼は警官が現れた事を気にも留めず行為を続けた。

市民を殺すことを止めるように警察が呼びかけても止める気配がなかったので、やむをえず警官の1人は彼を殺害するために発砲した。

発砲し確実に命中した。

しかし彼は蚊にでも刺されたかのように平然としていた。

まるで肌が鋼でできているかのように。

むしろどちらかといえば発砲した際に発せられる音に驚いて、警官たちに返り血で真っ赤になった顔を向けた。

平然と立っている。

ただ発砲音に驚いただけだと言うかのように。

だがしかし確かに当てた。

なぜなら彼の服には穴があいているからだ。

ならなぜ彼は平然としている。

答えはすぐに分かった。

彼の足もとにはあってはならないものが転がっていたからだ。

弾頭。

たとえ防弾チョッキを着ていたとしてもあれは弾頭が身体に到着せぬようにするためのクッション出でるあるため、決してはじいたりすることはないはずだ。

しかも彼は防弾チョッキなどを着ているようにはとても見えない。

しかし警官のH&KモデルP10ピストルから射出された9mm弾の弾頭が異常な形状に拉げて転がっているのだ。

おかしい。

警官は恐ろしくなり応援を呼びながらもさらに発砲した。

しかし、彼はまるで周りを飛び回る蝿を払うときのような、鬱陶しそうな顔をしながらゆっくりと、確実に近づいてくる。

しばらくしてその場に到着した応援の警官が見たのは真っ二つにされた2人の警官。

そして周囲には無残に殺された市民の死体が転がっているだけだった。

何もかもが異常だった。

すぐに応援に駆け付けた警官たちは残っている警官と軍の出動を要請したが、手続きやら何やらで軍は1時間以上はかかるのでそれまでに犯人を見つけておいて欲しという。

遅すぎる気はするものの彼らはそれを承諾し捜索に当たった。

だが10分とせずに市民の悲鳴と、血の跡を追うとすぐに見つかった。

死体の山に囲まれ、全身を血で赤く染め、血の滴り落ちる剣を持って立っていた。

こちらに気づいたのか顔を向けるとゆっくりと歩き始めた。

止まるように呼び掛けるも笑いながら近づいてくる彼に警官たちは次々と発砲するもやはり何事もなかったかのように進んでくる。

一人、また一人と彼の狂剣によりその幕を下ろしていく。

ドイツ連邦陸軍が到着するころには街は静まり返っていた。

誰もいない。

大量の死体が転がってはいるもののたった1時間でこんなにも人を殺せるものだろうか。

否。

常人ならばできるはずがない。

幸いにも警察車両に搭載されている防犯用カメラで今回ストックホルムで起こったことの大半が割った。

だがまだわからないこともある。

この剣をもった男が誰でどこから来たのか。

なぜ銃弾が通用しないのか。

そしてなぜ彼が手にする剣を振るう瞬間が見えず、次の瞬間近くにいた人間が肉塊となり果てているのか。

何もかもが謎に包まれている。

ただこのことは世界中に知れ渡り米国や欧米諸国は警戒を強めている。