山本周五郎は市井の貧困を上手に描いた人でしたね。

深川安楽亭

(山本周五郎著)

(2024/06/05読了 : 四度目)

これも、もう40年近く前に読んだ本です。

当時は、なぜか懐かしい感じがしたのを憶えています。

表題作の「深川安楽亭」は、「島」で営んでいる薄暗い居酒屋。

行ったこともないのに、その「島」の雰囲気、居酒屋の中の飯台の配置、奥でしている煮炊きの煙、そこにいる人々の様子、などなどを想像するに「懐かしい」と思うのです。

それはきっと、山本周五郎が、人の中にある心象風景を重ねて描いているからなのだと思います。

懐かしい、ではないですが、安楽亭に居着いている人たちがすることは、今でも通じる内容です。

「抜け荷」を扱っているので、裏稼業です。ご禁制品を密輸するんですね。

でも、その安楽亭に大怪我をして転げ込んできたお店者に無私の奉仕をします。

将来を誓った娘を、実の父親が身売りさせるという。

もう少しで暖簾を分けてもらえるのに、娘を助けるためのお金は用意できない。

そのお金を、安楽亭の人々があぶない橋を渡って工面します。

「よそからここへ来て、きれいなままで出てゆくのは、あの二人が初めてよ、－仕合わせになるといいわね」

安楽亭にいる人たちも、好んで裏稼業をしているわけではない、どこかで真っ当な生き方をしたい、その気持ちをお店ものと許嫁のあたりに重ねていたのだと思います。

他にも、結構しようとしていた娘がすっかり変わり果てた姿になってしまった「おかよ」も切ない話です。

以前読んだ時には「滑稽もの」の部類に入る「真説吝嗇記」や「百足ちがい」などが気を引いたのですが、今は違うところに気が行くようです。

これが人生を重ねてきたということなのでしょうかねぇ。

(--.-/--.-)

身を落としても