「猫侍」
【登場人物】
猫侍(♂)・・・主人公。
九平(♂)・・・くへい。居酒屋の店主。
夜鷹(♀)・・・現在でいう売春婦

(語り)・・・語り

一一一一一一一一一

季節は冬。外は寒く、地面には雪が積もるほど雪が降っている。
誰もいない静かな店内には2人の男。

カウンターには侍らしき男。ただ一人、静かに酒を飲んでいる。
もう一人はカウンターの中にいて、せっせと支度をしている。




(語り)「九平の現在の稼業は「居酒屋の店主」である。」


(間)


猫「・・・うめぇ」

久「・・・あっ・・・」

猫「・・・なるほど・・・これが『芋酒(いもざけ)』かぁ・・・ああ、確かに"一品"だな             あ・・・」

久「いやぁ・・・ははっ!そんな・・・何処かでお聴きになってお見えになったんですかい?」

猫「そうよ!渡り中間共に言わせるとな?コイツをやると『茶屋女の五人や六人は理由も無くなる』そうだぜぇ?」

久「はははっ!!・・・ありがてぇ様な、有り難くもねぇ様な、はっ!そんな噂が立ってる様でござんすね」

猫「ははは!!」



九平、猫侍の前に料理を差し出す。



猫「ん?おう?!こりゃあ何だい?」

久「あっ、同じ芋の料理でやんしてね『芋流し(ス)』。ま、やってみておくんなせぇ」

猫「うんうん・・・・・・!!・・・おい、お前ぇ若い時に修行したな?」

久「ははっ!!そんな修行だなんて・・・あーっ・・・ずーっと前に芝の"八尾味野(やおみの)"で二年ばかり・・・はっ!自慢にもなりませんよ」

猫「うーん・・・てぇしたもんだ・・・んっ!これをな、折りかなんぞに入れてくんねぇか?」



財布を取り出そうとする猫侍。



久「ええ、そりゃあどうも」

猫「女房のな、土産にしてぇんだよ・・・ほっ、これで足りるかい?」



九平の手に渡された金子。折り詰めと足しても居酒屋の飲み代にしてはとてもじゃないが多い。



久「はっ・・・。あああああ!!とんでもございません!!今、お釣りをっ!!」

猫「いやいやいや!!いや、要らねぇ!釣りは要らねぇ要らねぇ」

久「・・・旦那はどうも只者じゃねぇなぁ。初めは只の御浪人だと思ったんだが・・・身形も良いし、物腰もご立派だ。ま、どこかのお旗本がお忍びで・・・」

猫「お忍びと気付いたなら、ええ?妙な探りを入れねぇで、知らん振りしててもらいてぇんだがなぁ?」

久「ははっ!!おおっと!!うん、仰る通りだ!!こりゃあ、只者じゃねぇとは野暮な事を言っちまいました。はははははっ!!」

猫「ははっ・・・お前ぇこそ、只者じゃあるめぇ?えっ?」

久「だっははは!あっしは・・・ははははははは!!」

猫「ははははは!いやいや・・・まあいいさ。ええ?誰でも一つや二つの隠し事はあるものさ、なあ?」

久・猫「あっははははははははは!!」



ガラガラと戸を開く音。
そこには寒そうに入ってきた夜鷹が、肩の雪を落としている。



夜「・・・はぁぁつ・・・爺さん、熱くしてくれよ」

久「・・・お前ぇさん、申し訳ないが・・・」



夜鷹、カウンターに座っている猫侍に気付き帰ろうとする。



夜「あっ・・・!!」

猫「ん?おいおいおい!!どうしたどうした?!」

久「いえ、だってお目障りじゃねぇかと・・・」

猫「なんだ目障り!?ふん、俺の方がよっぽど目障りだよ。構わねぇから、入んな?ほら!」

夜「・・・すみません・・・お侍様」

猫「ああ、遅くまで大変だなあ・・・おい、ええ?あっ!!親父、あの女に酒を」

久「あっ!へいっ!」



夜鷹、ここは御礼にと誘う仕草をする。



猫「へへっ・・・いやぁ俺も歳でな、へっ・・・ソッチの方はもういけねぇんだよぉ・・・ははっ!いやぁ、まぁ、だからよ!こっちへ来て、身体が暖まるまで、ゆっくりと飲んでいきな。なっ?さあさあさあ!」

夜「・・・旦那・・・嬉しゅうございやす・・・」

猫「ん?なにが?」

夜「人の身に・・・扱っておくんなさるからさ・・・」

猫「人の身に?ははっ!人じゃねぇかよ。俺も、お前ぇも、おおぅ・・・この親父も。ははははは!」



そこへ猫侍が頼んでいた酒を差し出す九平。



久「ははっ!さぁ・・・」

猫「うん・・・・・・ほら、猪口」

久「旦那のお気持ちだ、受け取りな?」

猫「ん!・・・ほれ・・・さぁ、やってくれ!」

夜「・・・・・・はあぁっ・・・」



(間)



猫「・・・っああ〜っ・・・いい心持ちだ!ほれ、話し相手になってくれて、ありがとよっ!」



そう言いながら夜鷹の手を取り、金子を渡す猫侍。



夜「あっ、旦那っ、こんな!!ご馳走になった上に・・・」

猫「いいから取ってくれ。付き合ってくれた礼だ!ははは!」



立ち上がり、帰り支度をする猫侍。



猫「おい、寒くなるぜ?身体に気い付けてな?」

夜「旦那も」

久「あっ!旦那っ!これを・・・」



頼まれていた土産を渡す九平。



猫「ん?おおお!?・・・ありがてぇ」

久「旦那、お気に召しましたらどうぞまた、おいでになって下さいまし」

猫「おおう!!来るとも!!ははは、じゃあな!」



店を出る猫侍。



久「お気を付けぇなすって!!」

猫「おおう!」



(間)



夜「・・・はあ・・・悪態付く男にゃ負けはしない。掴みかかって喧嘩だってしてやるさ!でも・・・あの人にゃ・・・手も足も出ない・・・ふっ、どうすりゃいいんだか分からないよ・・・」

久「そうだよ・・・そうだよな・・・ははっ・・・大したお人だよ・・・」