私の好きな台詞。
中山「豆腐の味噌汁たっぷり飲んでから」
粕谷「晴れてると改まって言うのもはばかられる空が広がって」
作者は想像させることに長けた方。
そこにはいない綾子の人となりも、彼女と粕谷の生活も
観客一人ひとりの眼前に広がるお芝居。
上記の台詞は感覚的でささやかな言葉ではありますが
非常に優れた、素晴らしい言葉のチョイスだと思います。
この中山の台詞は、寒い朝、
外気をもろともせず冒険に出ようとする少年が
賽の目に切られた真白いお豆腐がふんだんに入った
少し塩辛い味噌汁を、なみなみと口に含み
食道から胃の中までサーっと一気に温まる様子が感覚として伝わってきます。
熱くて優しい味噌汁で腹を満たした少年は
俄然勇気を得て、凍える空気に挑んでいったことでしょう。
粕谷の台詞はラストの独白の一部。
彼の見ていた空は北海道の空で
さえぎるもののない、ただただ広くて青い空。
「改めて言うのもはばかられる」という空は
本当にありますね。
やはりそれは都会や町の空ではなくて
人ではなく自然が主役のような場所でしか見ることのない
空気の透明度が高くて、青の色合いが格段に濃い、と分るような場所で。
毎度のことで恐縮ですが、私の行く滑空場なんて正にそう。
はるかに見下ろされる人間の上に
ドーンと圧倒的に広がっている空が快晴だと、むしろ黙ってしまう。
「晴れてる」っていう言葉が小さて、陳腐に響いてしまうから。
そういう空の大きさ、透明感がこの一言で表されていて
これはもう、素直にヤラれてしまいました。