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 承兌は僧衣の裾を擦らせ鳴らしながら、寝そべる牛太郎の前に膝を畳んで座った。
「今回はいつまでおられるつもりです」
「ずっとだ」
「当寺は簗田殿の別荘ではございませんよ。それとも頭を丸め、出家されるおつもりですか」
「冗談だよ」
 せらせらと笑いながら右手を振った牛太郎。承兌は眉をしかめ、牛太郎を鬱陶しげに睨む。
「織田様の軍勢は越前制圧に乗り出しているというではありませんか。いいのですか。何をするのでもなくごろごろしていて」
「おいおい。何もしていないようで、何もしていないわけじゃないんだ」
 実際、牛太郎自身は何もしていない。だが、堺の四郎次郎と彩を走り回せている。また、利兵衛を京と堺を往復させて、情報の伝達に使い走らせている。弥八郎は、あまりやっていることを知られたくないので、相国寺で置き物にしている。
 牛太郎が企んでいるのは、石山本願寺と織田軍の和睦であった。当然、狙いは淀川の水運業を独占し続けるためなのだが、この和睦計画は身を隠してひそひそと動くほどの背信行為ではなかった。
 包囲網を打ち崩し、武田軍を東海から追い払ったとはいえ、織田軍からすべての脅威が去ったわけではない。今の状況で堅牢な石山本願寺と真正面から対立するのは戦略上得策ではなく、私利私欲のためではありながらも、自然、牛太郎の動きは織田家の運営の助力もしていた。
 ただ、本願寺と闇取引のある四郎次郎を石山に遣わし、坊主どもを説得させている間、自らは京に隠れているのは、近頃、奉行衆の松井友閑が堺の代官に任じられたからであった。


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 上総介には西国攻略のため姫路に赴くと伝えている牛太郎なのである。いつまでも堺に腰を下ろしているのが松井友閑に知られてしまうのはよくなかった。
「松井は邪魔だ。あいつが来たおかげでおれはここにいるしかなくなったんだ」
 承兌は苦笑する。
「そうはおっしゃられても、松井殿は織田様の台所を一手に担う方ではありませんか。堺に遣わされたのは当然のことです」
「まあいいさ」
 牛太郎は寝返りを打ち、承兌に背を向けた。
 本願寺との和睦交渉には、邪魔な松井友閑を当たらせようと企んでいる。一介の商人にすぎない四郎次郎が織田家と本願寺との間を取り持てるはずもない。なので、本願寺との話を進展させた四郎次郎が、和睦の利を、同じ堺の商人津田助五郎に吹き込むという手筈だった。この津田助五郎と松井友閑は近しい関係らしく、津田から松井へと話が運べば、上総介側近かつ織田軍の優秀な外交官である松井が本願寺との和睦交渉の席に着くはずである。
「どうせ、松井の動きは手に取るようにわかる」
 彩に、松井の動向に気を付けるよう言い聞かせてある。気を付けると言ったら大袈裟だが、松井の動きは上総介の動きも隈なく読み取れることになり、もしも、主君に上洛の動きがあればいち早く姫路に逃げ込むつもりでいた。
「簗田殿。あまり裏事情に手を染めると抜け出せなくなりますよ」
「裏事情なんていう大それたものじゃねえよ」
 牛太郎は笑って返した。
 殿、殿、と、廊下を踏み鳴らしながら、利兵衛が大声を上げて飛んできた。
「殿っ!」
 堺から一直線に走ってきたわけじゃあるまいし、どうせ門をくぐってきてから走り出したのだろう、ぜえぜえと両肩で大きく息をつくわりには汗一つかいていなかった。
「なんだよ」
「朗報ですよっ! 若様が沓掛から加賀江沼郡の大聖寺城へ転封となり、所領は加賀一国切り取り次第だそうなんですよっ!」
 牛太郎は跳ね起きた。事態がすぐには飲み込めなくて、口を半開きにしたまま、承兌を見つめたり、利兵衛に目を向けたりした。
「これはおめでとうございます。簗田殿」
 承兌