「買わなきゃ、今だよ奥さん。育んだ日々は僕が守るさ」
不審に思われたかも知れないが、僕は今歩きながら音楽を聞いている。
聞いていたら、いつの間にか一緒に歌ってしまっていた。しかも、周到に片方のイヤホンを外してだ。
最近、音楽を聞いているとどうしても歌いたくなってしまう。
いよいよおかしくなった、と思えばそれまでだが、僕は歩きながら考えた。
あ、歩いて歌いながら、
そういえば、僕は生来「目立たない目立ちたがり屋」だった気がする。
本当は人の前に立って話をしたり、人と違うことをやってみたい、と切望しているのだが、どう頑張ってもうまく行かないのだ。
そういえばこんなことがあった。
小学校の頃、千葉と同じ組になったのは高学年になってからだった。
ちょうど彼女とは名前順が近かったので同じ班になったのだが、班決め後に行う大事な儀式と言えば、もちろん班長決めだ。
目立ちたがりだった僕は、勇んで班長に立候補しようとしていた。
僕が手を挙げようとしたその瞬間に、「お前は駄目だから!」
と笑顔で言われた。何が起こったのかわからなかった。
だが、一つだけその時わかった。
おれは、駄目なんだ。
もう悔しいとかの感情はなく、なんか爽やかだった。
なにが言いたかったかと言うと、結局僕は目立たないのだ。
目立たないのに目立とうと、誰かに注目されるような存在になろうとしている。
きっと街を歩いているときに歌いたくなるのは、無自覚にそれが働いているからかも知れない。
きっとそうだ。道を歩いていても誰かに話しかけて欲しいと心のどこかで願っているのだ。
それは、とても情けない性質だ。
或いはとても困った性質でもある。
だって、目立ちたいんだもん。
仕方ないよね。
