その夜であつた。叔父は再びアトリヱを訪れ、そして放浪に旅立つことを言ひだしたのだ。
ここで私は、私の心に起つた不可解な変化に就いて一言しなければならない。私は武蔵野を散歩しながら、もはや人々の立ち去つたアトリヱへ戻つて、物憂い白昼をすごしながら、静かな夜をむかへながら、ニューバランス 574私の決意は然し激浪の荒々しさで秋子と私との結婚の事を追ひまはしてゐた。その一事のみを熱のこもつた痺れる頭で追ひつづけてゐたのであつた。その時の心事を一言にして言へば、私はもはや秋子なしには生きられない思ひがしたのだ。然るに叔父の訪問を受け、対談の時をすごすうちに、話が愈々秋子のことに移つた頃には、私は秋子を一途に憎み蔑んでゐる自分の心を明確に意識した。この激変には一切の理由づけが無役に見える。私に分つた唯一のことは、理性では如何とも制しきれない根強い感情の波が、ひたむきに秋子を卑しみ蔑んでゐたこと、それのみであつたのだ。結婚の意志が失はれたのは愚かなこと、ニューバランス1400秋子の肉体があの時間から淫売婦の肉体に思はれたといへば、その蔑みの激しさは他言を費す要もあるまい。試みにあの夜の出来事を思ひだしながら書いてみやう。
叔父は私の顔を見ると、いきなり放浪に旅立つことを喚きはじめた。その話の内容から一々の効果まであまりに計算し心に期しすぎたがために、さながら喚くといふ慌ただしい感じによつて語りだしたが、実際の態度はむしろ幾分粛然と気取りすぎた感さへある静かさであつた。その話に対しては、私に返答の余地さへ見当らないかの宛然独壇場の有様であつた。ニューバランス996つづいて、私にそれと分る沈黙の瞬間をおいて、秋子のことを語りだした。
「私はお前とあの人の恋に気付かないわけではなかつたのだ」
と、叔父は私がむしろ反感を催すほど、空々しい何気なさで言ひだしたのだ。私は叔父のその態度に突然硬直するほどの立腹を覚えたことも忘れられない。ニューバランス スニーカー私は侮辱を受けたかの飛びあがるやうな衝動すら覚えた。
「気付かないどころではなく、長らく嫉妬に悩まされてゐたほどだつた――」
と叔父はつづけた。その告白的な態度を見ると、私の苛立ちは忽ちその絶頂に達し、私の唇は顫え、拳を握りしめずにゐられなかつた。叔父は然し私の亢奮には全く気付かず、言葉をつづけた。
「この年になつて漸く私にはつきり呑みこめたことが何だと思ふ? http://www.newbalancetops.com/愛慾だ。女だ。さうさ、この年齢で醜悪な執着と思ふだらうが、私は始めて恋情が私の生活の全てであることが分つたのだ。私はただ恋によつて生きてゐる。そのことを疑ふことは出来ないのだ。そのほかにも何かがある、仕事がある、義務がある、なにか悠久な感動がある。然し女が第一だ。私は理窟なしに断言する。私の心をもみくちやに踏みにじる恋情に縋りついてゐなかつたら、私は到底生き永らへてゐられないのだ。然し私はあの人を諦らめやうと思つた。諦らめることも、私のいはゆる恋情のうちの一つなのだ。私を生き永らへしめる恋は、恋をかちえることその一つではない。恋を失ふことも、私を生かす恋情の一つなのだ」