斬る抉る屠る千切る
それは殺戮が呼び起こした混沌の中
ひたすらに死の渦に身を置く者がいた
目の奥に潜む光は色という表現が出来ない一つの存在
その存在に怯んだ者から一人、また一人
血が噴き出し空を斬る
肉片は大地に刻画の様に飛び散る
なかなかどうしてそれはひとつの美しい画となり
神の目の興味を引いた
『混沌に塗れ、其れを良しとする者よ
世界が唯一其れの雨に流れたなら
其方が生きたる其の瞬間こそが
真の悦楽に及び出づるだろう
其れ故もがく様
なんと美しいのか』
血の海の水面に
浮く様に佇んでいる其の者は
なにをしていたのかと自分の手を見つめている
ついさっきまで満していたあの感情は何だったのか
まるで世界の終焉の様な景色の中
其の者はただ
胸を埋めていたものを懐かしんでいた
いつから…
俺の手は…
こんなにも…
赤く…
臭く…
艶やかに…
震えているんだ?
血が噴き出している光景は興奮が止まらない
悲鳴が交錯するのは何かの音楽なのだろう
神はもがく様が美しいと言った
もがいているのは彼らだというのに
虚しい
悲しい
苦しい
痛い
壊す事が止められない
そうじゃないと自分を保てない
こんなにもくだらない気持ちになるのなら
世界の肉は俺に引き裂かれるべきだ
何が美しいというのか!
もがく様が美しいと言うのなら逆ではないのか
壊している時こそ魂が歓喜する時
そのあとの赤と白の世界が俺を苦しめる
苦しんでいる様が美しいと感じる貴様は
何をもって世界の神と嘲るのか!
苦しみがあるから世界はこんなにも白い
快楽があるから世界は絶望的に赤い
神よ!
何をもって俺に囁いた!
俺の中に宿る殺戮の王が貴様に問う!
救いとは何だ!
この世界に!
愛は何処にあるッッッ!?
そう叫んだ事で
世界は肉を集めていく
理性はとうに失われ
其の者は殺戮を始める
其れが当たり前の様に
先刻まで何やら叫んでいた気がする
だが今は悦楽のまま
血を流したい
神よ…
肉を千切りながら囁く
俺には愛は無いのだろうか…
肉を抉りながら問う
満たす物が快楽であるから考えなかった
肉を屠りながら睨む
たが俺は知った!
肉を斬りながら叫ぶ
世界にかけている物があると
殺戮が繰り返すだけの世界と
それに快楽を感じる俺と
求める物がただそれだけだと思っていた
だがそうではないのだろう?
世界は快楽と絶望で出来ているなら
何故俺は涙を流している!?
殺している最中も
終わった虚無も
何故俺は涙を流している…
世界は赤と白で出来ている
だがそれの密かに
俺の汚らしい涙が
血の海を汚してる
殺戮の王は涙を流している事に気づいた
しかし、それは神に囁かれ考えての事
それまでの殺戮の王はその名に恥じぬ業行を
繰り返すだけの存在だったのかもしれない
だが神は告げる
『生み出事が世界の理ならば、朽ち果てる事もまた同一
生み出事のみが愛のそれだというのなら
かくも滑稽、世界は保てぬだろうに
終わりを与える其方の所業
それは世界の愛と知るのだ』
神は殺戮の王に愛を告げた
だが、何かが変わったわけではない
殺戮の王は何も変わらない
目の前に生あらば殺すのみ
そう何も変わらない
ただ
死体の山が天に届く時
彼は笑ったという
涙は流れていない
むしろ清々しい表情をしながら
ひとつの世界を滅ぼした景色を背に
こう囁いた
神を殺すのも愛なのか?
