研修医だったころ、Tampopoは貴重な症例に出会った。ひなは生後1か月の女児だ。体重増加不良ということで、小児科外来を受診した。外来診察医が母親美恵と話をしている時に、Tampopoはひなを抱っこしあやしていた。かわいい~でも何か変!

ひなと目が合わないことが変!だと気が付いた。にこりともしない。ひなの目線にTampopoの顔を持っていっても目が合わない。
 

Tampopoは指導医にこっそり話した。「この親子なんか変です」
指導医はTampopoに「僕の専門外のことだから君お母さんの話を聞いて」と言いながら部屋から立ち去った。
Tampopoはお母さんに「ちょっとお話いいですか?」と声をかけ、やさしく「子どもさんかわいいですね。」と話しかけた。
すると美恵から以下の言葉が聞かれた。
「私はこの子が欲しくなかったんです。夫とも離婚を考えており、42歳で生理が来なくなったため、閉経だと思っていました。ちょうどそのころ友人に孫ができたので、私もおばあちゃんになる年だなあと考えていました。夫と子供たちと別居して実家で生活をしています。しばらくしてひょっとして妊娠?と感じることがあり、産婦人科受診したところ、妊娠していると言われ、びっくりしました。産婦人科医からは人工妊娠中絶ができない週数になっているので、このまま妊娠の継続をしなくてはいけないといわれ、がっかりしました。この子をどうやって育てようか困っています。ミルクをあげる時も見たくないので、かわいくないので、抱っこしてあげていません。ほとんど布団の上に寝かせたままです。」

 

 これは大変だ・・・Tampopoは継続して面談をすることにした。

 2回目の面談はお父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんが一緒に来てくれた。ひなは第4子となる。にぎやかな家族の中で、ひながかわいがられていることが分かった。特にお父さんは年をとって生まれた子どもなのでかわいくてたまらないようだ。別居しているが、毎日会いに行っているとのこと。
 母親の態度は全く変わっていなかった。
 Tampopoは美恵にこう話した。

「ひなちゃんに色々話しかけてあげてくださいね。」
 すると美恵はこう質問をした。

「何を話せば理解してくれますか?」

 第4子であるが今までどんな子育てをしてきたんだろうか?大きな疑問であった。お兄ちゃんお姉ちゃんを見ると、特に問題なく育っていることを考えるとお父さんがいいかかわりをしているのだろう。Tampopoは目の前にあるカレンダーにカニと花の絵があったのでそれを見ながら答えた。

「カニがいれば『カニさん怖いね~』、お花があれば『お花きれいだね~』というように声を掛けたらいいのですよ。」

「カニがいなくても話していいですか?」

「・・・・」

 

 その後お父さんと兄弟姉妹とで毎回面談に来てくれていた。

 離乳食が始まるころ、美恵は普通のご飯をひなに食べさせていた。「御飯を作ることが面倒なのでスーパーで買ったものを食べさせています」と。

 今別居しているためにお父さんやひなをかわいがる兄弟姉妹のかかわりが少なくなる。ひなの成長が心配だったが、Tampopoの異動の日が近づいていた。

1歳になる前に地域の保健師にフォローをしてもらうよう引継ぎ、Tampopoはひな家族の担当を離れることになった。

 

 10年後・・・地元新聞に絵画で賞をとったとひなが出ていた。名前を見た時とてもうれしかった。立派に成長していたのだ。家族で一緒に生活ができているのかなあ?Tampopoは今のひなの生活を案じながらも成長に一人ニヤリとしていた。