この世界に溢れる嫉妬を少しでも受け持つ全ての恋人たちに。
そして、全世界のジェラシーを平等に全ての人たちへ。
そして、全世界のハッピーを不平等に全ての人たちへ。
僕の恋人は水商売をしています。
働いている場所もお店も一流と呼ばれるところです。
恋人がしていることに、恥ずかしさを覚えることも無ければ、無駄な自意識を感じることもありません。
接客ということにおいて、そこは、最もプロフェッショナル化されたものであると思うし、また、自分の経験から、接客というのはいかに難しいのかを理解しているからです。
そして、それを続けている彼女のことを、とても誇りに思います。
しかし、恋人として見たとき、自分の中に異物感を覚えることがあります。
それは、彼女の仕事の時間と俺との時間との境界線が見えにくい事から来るのかもしれません。
また、単純に彼女の仕事以外の時間に、接触しすぎることも、その境界を見にくくさせる一つなのでしょう。
僕は彼女の私生活を覗きすぎている。
一緒にいたいという欲望を叶えているということは、(非常に自分勝手な)彼女の見たくない側面をたくさん見る、ということと同値です。
彼女は誕生日にお客さんからブルガリの腕時計を頂きました。
それは、手動式の時計で。
時々振ってあげないと、うまく動かないから、腕に付けています。
その腕時計は、俺にとって恐怖になります。
一緒にベッドでごろごろしているとき、遊んでいるとき、僕の視覚に入ってくる彼女の腕時計を、僕は感覚を殺して、「ただの」腕時計だと感じるように操作し、実際そうであって、ほかの何でもない。
でも、それが、客からもらった、とか、ブルガリだ、とか、彼女がいつも付けてる、という形容詞を考えたとき。
それは、恐怖になります。
俺が、今いくら逆立ちしても、彼女にこんな時計はプレゼント出来ないな。って思わせるに十分の脅威です。
勿論、俺が金を借りまくって、買うことは可能ですが、それを、実行したところでどうなるんだろう。
そこには、ただの金額的なものによる数字のサディズムと見栄ばかりが見え、とてもいやらしいプレゼントになるだけでしょう。
俺はそんなものを上げたくないし、彼女も喜ばない。
彼女は「高いものが欲しいわけじゃないよ。高いものが食べたいわけじゃないよ。」と言う。
そんなことは、十分理解しているし、わかっている。
貴方が、精神的な幸福と快楽が好みなのは勿論知ってる。
それでも、わきあがる嫉妬というものが、現実に確かに存在する。
そして、それに戸惑い、悲しくもなるし、機嫌が悪くもなるし、何も見えなくなるときがある。
貴方が、ホステスという仕事をして、そこで得た信頼関係から、そんなプレゼントを頂くことが、俺はうれしい。
美味しいものを食べたり、行ったことのないような場所に連れて行ってもらったり、貴方が色々経験することは、とても嬉しく思う。
相手から、何かしてもらえるというのは、必ず当人の魅力に起因するものであるから。
貴方が、愛されること、誰かにプレゼントをもらえる事、を誇りに思えるし、単純に嬉しいな、って思います。
勿論、彼女とセックスしたいお客さんもいるでしょう。
俺の女になれ、って言う人もいるかもしれません。
結婚しよう、って言う既婚者もいるかもしれません。
でも、そんな人たちの中で、彼女が得たお客さんとの信頼関係が存在し、それを俺は幸せに思います。
交友関係が広い方が何かと楽しい世界であるし、また信頼関係って、築くのはなかなか難しいし、でもめちゃくちゃ大切だよな、って思う。
多分、嫉妬を感じるのは、うらやましいんでしょう。
自分の恋人と、お客さんの関係が。
ブルガリをあげれる関係。
シャネルをあげれる関係。
ウエスティンに泊まらせてあげれる関係。
そして、そのお客さんのそんな経済状況をも。
俺は彼女を幸せにしてあげたいと思う。
そんな力も権利もあるかどうかはわかんないけど、彼女が俺を選んでくれたから、俺はそれへのプレゼントとして、彼女をめいっぱい幸せにしてあげたい。
でも、そんな力があるのかどうか不安になる。
だから、早く、大人になりたいと思う。自分の思い描くものに少しでも近づきたいと思う。
とても、自分勝手な意見だな。
僕らの悲しみを僕らの幸せに出来ますように。