それでは毎度毎度ロークオリティですがよろしくお願いします。
「結構降りてきたわね」
下層に降りる階段を降り切った時、不意に千歳がそう言った。無論先ほどの群狼を退けた後の話である。
「そうですね。前回と同じパターンならここ。または最上階。もしくは隠し空間にでもありそうですがどこにあるともまだわかりませんね。今の所闇雲に下だけ進んでいるだけですからあんまり関係ないですが。」
悠斗は何かを書きながら片手間にそう応じた。線と区画された図形の様なものを書いている。それは地図だった。間取り図のようにある程度分かるよう、通路の長さなどを悠斗のさじ加減で書かれている。その地図はかなりの階層を記しており、現時点での最下層は地下四階に及んでいるほど深かった。
「柊真。どう? この城に何か期待できそうな文字とか刻んでなかった?」
「チトちゃん…何かざっくりした物言いだね~。ん~でもまぁもう下に降りることはないと思うよ?」
どういう意味?…と千歳は柊真に問い返した。その問答に悠斗も地図を見ながら聞き耳を立てている。
「ん~地下でもここはもうだいぶ深いからこのままだと海出ちゃうし、このあたりが最下層だと思うよ?」
あぁ。…と得心した様子の千歳。いくら城を地下にまで広げられると言っても限度はある。むしろここまで地下深くに空間を作れること自体が異常なのだと解釈した。
そうしている内に悠斗たちはまた十字路をの前に立ち、悠斗の描いた地図を眺めていた。この場所は数度来た場所であり、もうここを訪れるのは三度目。つまり、もう残された道は一つである。
悠斗は先ほどまで歩いていた道に△印をつける。これは一度通った道だが、隠し扉などの可能性を考慮して書き分けるためである。それも確認した上で再度地図を見て、方向を確認し残された道を進んだ。
☾ ☽
それからまた数分経ち、悠斗たちは再び分かれ道に対面する。…ただし今度は行き止まり。一方は列車の加減速を行うようなハンドルレバーが壁に埋め込まれており、もう一方の通路には大鏡があった。双方ともにそれらがあるだけで、行き止まり。この地下深くに来てまでそんなものを置く必要性がない事から、この二つは隠しギミックの根幹を担うものだと確信した。無論これらの判断はゲームが元である。
「とりあえずレバー倒してみる?」
千歳は藪から棒にそんな事を言った。既にレバーに手をかけ今にも倒しかねない腕の位置である。そんな後先を考えない直情的な発想である発言に悠斗はいつものように反論する。
「バカですか貴女は!ゲームじゃないんですからもっと慎重に行動してください。…それと、このレバーは十中八九トラップかフェイクでしょう。正しい手順を踏んだり、これの他に本当のレバーやらがあるとみて間違いないですね」
「……情報元は?」
千歳は得意顔で語る悠斗にジト目で睨みつける。対する悠斗も気取ったようにやれやれとこう返した。
「……某ダンジョンゲーム?」
「アンタのも信用性ないわよっ!!」
千歳は先ほどまでの自分の思考を棚に上げそう叫んだ。悠斗にも「その発言をよーく覚えて反対側に鏡ありますから見てきます?」と言われてしまう始末だが。
(それでもないよりはマシだと思うけどね~…)そんな千歳の発発言を受けてふと柊真はそう思った。だから下手に手を出すのは得策ではない。…という悠斗の意見は当然と思った柊真、は二人にこう告げる。
「は~い。二人ともそこまでにしてちゃんと考えようよ~。何にせよここにレバーとか鏡さんがある時点で不自然なんだからここに何かあるのは違いないよ~」
「何か…ね。でも、謎解こうにもこうもヒントが少ないんじゃ探しようがないでしょ。どうする?」
「とりあえず実験してみましょう。チトちゃん。適当に2、3体ほど土傀儡作ってくれます? 慎重に行くにはできる限り我々の危険を減らしておきませんと…ね」
悠斗は『土製の傀儡を使って検証実験をしたい。』…そういう事を言いたいのだと千歳は即座に察した。見た目に合わず荒っぽい発想である。と、そう感じた。
「…うん。いいわよ。土石系魔法は結構得意だし、ウェルヴフもあるから詠唱なしでも十分作れるからさっそく試してみよっか。…最初は何をさせる?」
千歳は指で空中に円を描きながら二人にそう問う。悠斗と柊真は一瞬悩んでから各々に答える。
「とりあえず一体にはレバーを倒させましょうか」
「んー。鏡をよく調べさせるとか」
「あんた等よく偉そうに物言えたわね…! 結局無策じゃん!」
「冗談冗談。ですがレバーを土傀儡に倒させるというのは本当ですよ」
わなわなと怒り心頭の千歳をなだめるように悠斗は、はははははとキザに笑う。そして悠斗が笑っている間に土傀儡が2体。城壁を原料として小学生低学年ほどの大きさの土傀儡が出来上がった。一つ一つがファンシーなモグラのようなデザインをしている。各々の個体にはヘルメット帽子、グラサンをそれぞれ装着している。
不意を突かれたように驚く千歳。
「ですがチトちゃんも気になりません?もともとレバーを倒したかったのは貴女ですし」
確かにその通りなのだが、千歳は、いつの間にか先ほどと立場が入れ替わっていることに少し戸惑ったのである。だからその問いに千歳は曖昧な返答をした。
「ぼくが思うに悠斗はレバーを倒すことで何が起こるかを確かめたいわけだね~。それがヒントになるかもしれないし~はたまた関係ないかもしれない…とか?」
戸惑う千歳をフォローするように柊真がそんな事を言った。
「大体はそんなところです。…というかチトちゃんいつもは俺や柊真より頭いいはずなんですがどうしました?」
「う…うるさいわね。ちょっと混乱してるのよ…。前回みたいにトラップも何にもなしにいきなりボス戦やると思ってたから想定外。まさか謎解きに腐心するとはね」
千歳は髪の毛をポリポリと掻く。(今日調子が良くないのはそう言う事なのだな~)と柊真は思う。探索に思ったよりも手間や時間がかかっていることに少なからずストレスを感じているのだ。
土傀儡の内の一体、ヘルメットをしている個体をレバーに近づけさせ、悠斗たちはある程度距離を取った。およそ15mほどレバーから通路の分岐点の手前まで戻り、土傀儡を遠隔操作し様子をうかがう。土傀儡は歩く度ぴょこぴょこと足音を立て、足で歩いているというより全身ではねていた。
「チトちゃん。何であんな愛らしい系の見た目にしたんですか!? 何かあった時忍びないでしょうが!」
「しょうがないじゃない! 土石系が得意って言っても一回土傀儡としての容姿をアレに決めちゃったら変更は難しいんだから!」
「さらば~。ヘルメ君。お地蔵さんと遊びましょ。お地蔵さんと遊びましょ~…」
「不吉なこと言わないでくださいよ! それより懐かしいですねその謎の遊び! 昔何かの遊びでやりましたよね!? すっごいシュールでしたよね!?」
その昔。柊真発祥の一発遊びにこのお地蔵さんと遊びましょ…というひたすらにその言葉をお経のように唱え続け、特定の人物の周囲を集団で囲むという謎の遊びがあった。いわゆる「かごめかごめ」のような遊びなのだが、最大の違いはこれは遊びではあってもゲームではないという事である。…つまりルールも目的もなくひたすらに回って唱えるだけの遊びなのだが、これのこのシュールさが何故か小学生の頃の悠斗たちにほんの一瞬大ブームを起こし、今なお記憶の片隅に残すまでに印象付けられている。ちなみに千歳が先の僧正マガフツの事を、最後まで「お地蔵さん」と呼んでいたのはこのためである。その遊びは「死にネタ」として扱われており、ご愁傷様などとほぼ同意である。
やがてヘルメット土傀儡は問題のレバーに触れる。その瞬間悠斗たちは騒ぐのを止め、息をのんでヘルメットを凝視する。すると…ヘルメットは愛らしいしぐさでレバーを倒し、倒した瞬間にどこからともなく現れた鎖で繋がれた手錠に前後足を拘束された。
「「「――――――――――はい?」」」
「………!? !!!?」
ヘルメットは前足の手錠を目認すると、即座に後ろ脚をパタパタと動かし同じく拘束されていることに驚愕する。それらの動作の度に全身を震わせパニックになる。パニックのまま暴れて抜け出そうと試みるが、当然手錠。拘束器具である。抵抗虚しくびくともしない。
そこに畳み掛けるようにレバーの周辺で地響きが発生した。発生源は間違いなくレバーである。その肝心のレバーは地響きとともに壁の中へと吸い込まれていくように壁の方へと動いていく。その様子を見てヘルメットはますますパニックを起こす。
「…ねぇ。チトちゃん…何だかぼく――」
「みなまで言わないで。…大丈夫。いや大丈夫じゃないけど安心して。…あたしも嫌な予感がするから」
レバーが壁の中に埋まるように移動して行き、ちょうど埋まりきった時だった。突然凄まじい勢いで天井が大きく動いた。具体的にはねじが外れるように――である。
「ちょっ…! あれってまずくない!? 助けないと…!」
千歳を始めとした三人が慌ててヘルメットのもとへと動こうとした時、再び天井は大きく動き始めた。なんと天井が落下し、ヘルメットを含めた城の床ごと押し沈められたのだ。そして天井が床と入れ替わるように天井は床となり、天井は少し遠くなった代わりに上階の天井が見えるようになった。ヘルメットが天井に潰される寸前、心なしか悲しげに見えたのは気のせいではないことは確かだった。おまけに土傀儡であるヘルメットは、本来のモグラと違いかなり大型である。故に辛うじて動かせる前足の爪を駆使し穴を掘ろうと考えるも、この巨体ではそれほど大きな穴を作り出せるはずもなく、あえなく虚しい抵抗として終わってしまったのである。
「「「…………………」」」
悠斗は唖然とし、柊真はただただ苦笑いを重ね、千歳はショックで口を開けたり閉めたりして激しく動揺している。案の定罠だったとはいえ、悠斗はまさか千歳の作る土傀儡の見た目がファンシー且つ生物的なものだとは全く予想していなかった。無論土が原料なので生命が宿っている訳ではないが、千歳が構成した魔法のプログラムがたまたまそういう仕様だったという事である。だが、三人の中には紛れもない罪悪感がズキズキと心を突き刺していた。
――と、そんな時だった。いつの間にやら壁の中に埋まっていたレバーが、再び元の位置に戻っており、そこには先ほどまでの状況とは違うものがあった。壁の中からガチャポンのように何かが落ちてきたからである。それに気づいた悠斗は急いでそれを拾う。どうやらネームプレートほどの大きさのプレートである。プラスチックのような素材で何か文字の様な記号が書いてあるが、それは悠斗には読めない。
「久々にショッキングなものを…。ん~? それってオケアニウヌス語だね。…どれどれ?『裏の裏の裏は裏』だってさ~。……めんどくさっ!」
柊真のノリツッコミ。レアではなく比較的に多かったりする。そんな二人をよそに、千歳は残された土傀儡とともにお経を唱えていた。
「助けられなくてごめん…! 君の犠牲は無駄にはしないからね…。な~む~」
☾ ☽
それから三人は、今度は反対側の鏡のある行き止まりへと来ていた。鏡はマジックミラーかとふんだが普通に映したままを反射している。一部が歪んだりするような偏光ガラスではない様である。
「さて…ここからは俺の推測ですが。ちょっと先ほどの土傀儡の聖戦(実験)で得たこれが関係しているのではないかと」
悠斗は先ほど拾ったオケアニウヌス語で書かれたプレートと鏡を眺める。そして悠斗はプレートを持って鏡を探り始めた。それも紐で吊るされている鏡の裏側をである。
「……え? 何してんの悠斗~?」
「先ほどのプレートに書いてあったでしょう?『裏の裏の裏は裏』と。結局は裏なんですから鏡の裏側を探っているのですよ。予想通りこの大鏡はカモフラージュで裏にはこんなものがありましたよ?」
悠斗は得意げに大鏡を動かし、鏡の裏を柊真と千歳に見せつける。
「……くぼみ? あぁ、そのくぼみにそのプレートをはめ込むのね。…その周りにも何か模様があるけど」
「その通り。…さて、柊真。この鏡を通してもう一度読んでもらえます?」
悠斗はプレートを壁にはめ込み、掛吊るされた大鏡を外して柊真のもとに行く。そして鏡を再度プレートに向けた瞬間最初に柊真が。数秒遅れて千歳はその意図を察した。
「あぁ、そっか! プレートの文字が見えるように壁にはめ込ませて、それを鏡を通して見ると文字が変わるんだ!」
千歳は嬉々としてそう言った。先ほどまでやや重い気持ちに苛まれていたがこれを見て少し気が晴れたようだった。それはもちろん柊真も、悠斗も同じことだった。
「う~んとね。『上右22番目の8番目の床を制せよ』…だって」
「ほうほう。つまり『この部屋の床の上から22番目、右から8番目の石を手で押せ。』という事でしょう。ひどく面倒なギミックでしたが、ようやくたどり着けたみたいですね!」
悠斗も柄になくはしゃいでいる様子だった。これまでの数日間のフラストレーションがたまり溜まっていた…という事である。
指定された床を押すと、床が開き地下へと続く階段が現れる。
階段の下は少し薄暗かったが、千歳の作った魔法の明かりで階段の最下層にある門に記された文字を読むことができた。
――『隠者の光』。…それがこの部屋の名前だった。
「いよいよですね。前回のようにただやられるわけではありませんよ」
「そうだね~。今回は作戦もあるし、大丈夫かな~」
「んじゃ! 準備も整ったところで…いきましょっか!」
三人は戦闘態勢を整え、ドアを開いた。
