本日のお得情報はこの記事から。
|
| ノーベルの遺言(Wikipediaより) |
先週来ノーベル賞の各部門賞が発表され、大手メディアのトップ級ニュースとして扱われているのはご存じの通り。ただ、今年は受賞確実と事前に「有力」と報じられた日本人研究者が選ばれず、失望感が広がったのも事実。この「失望」の背後には、過熱するばかりの“先走り報道”がある。こうした報道は候補者の精神的な負担になるほか、さまざまな弊害があるのだ。
●地元紙の一報
10月3日、筆者は資料整理の合間にインターネットの各種ニュースサイトをチェックしていた。すると、同日夜発表予定だったノーベル医学生理学賞に関して、京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞(新型万能細胞)研究が受賞の有力だと伝えたスウェーデン紙『ダーゲンス・ニュヘテル』の記事があった。
共同通信の転電のあと、主要紙や民放テレビが相次いでこの現地紙報道を引用し、大きく取り上げていた。
同日は、政界で目立ったイベントがなかったほか、事件・事故の類いも少ないタイミングにあった。このため、ノーベル賞関連のスウェーデン紙のニュースの扱いが相対的に大きくなった側面がある。
もちろん、同教授の研究は内外で評価が極めて高く、医療分野のみならず産業界の注目度もある。同賞受賞が決まれば第一級のニュース素材になることは間違いない。
ただ「ちょっと待て」というのが筆者のみならず、多くの読者や視聴者が抱いた率直な感想ではなかっただろうか。ノーベル賞は、毎年専門委員が秘密裏に選考協議を進める。筆者の知る限りこの内容が事前に漏れたことはない。
海外通信社が事前予想しているケースはもちろんある。また、先の山中教授の研究のように海外での注目度も高いとなれば、日本のメディアがその動向を取材するのはごくごく当たり前の行動だといえる。
筆者が抱いた「待て」の率直な感想とは、先のスウェーデン紙の記事に寄りかかりすぎた報道が多数を占めていたからに他ならない。つまり、現地紙が「有力」と報じたことだけが根拠なのだ。共同電のあとの在京紙、テレビのニュースのあとは、情報番組もこぞって山中氏有力に傾斜していった。
ちなみに、件のスウェーデン紙は昨年も同教授の「有力」を伝えていた。地元紙といえど、選考過程の詳細をつかんだ形跡が乏しい。この記事のみを根拠に、それが日本の選挙報道にある“当確”に近いニュアンスで伝えられたのだ。
もちろん、主要メディアは事前に有力候補者の経歴や研究内容を取材している。当然、予定稿は万全の状態にある。筆者がチェックした限りだが、スウェーデン紙の報道を契機に、予定稿を吐き出してしまった感のあるテレビニュースさえあった。
ここからは筆者の経験を交えての想像だが、新聞やテレビの報道局では「他のメディアが大きく扱った。ウチも扱え」的な幹部の声がフロア中に響いたはずだ。要するに、根拠に乏しい現地紙の予想記事でさえ、1社だけネタを落としてしまう「特オチ」を恐れるあまり、我も我もと転電してしまったのが実状だと考える。
●株式市場をミスリード
新興企業の株式市場であるジャスダックに上場する「J・TEC」という銘柄がある。再生医療を専門に扱うバイオベンチャー企業だ。
先に触れた山中教授と直接関係する企業ではないが、iPSを主な研究対象としている。同社の株価は、ノーベル賞の医学生理学賞の発表前に思惑的な買いを集め、同賞発表直前の3営業日で10%超も株価が急伸した。
ただ、同賞の正式発表後は8%超値を下げた。新興市場銘柄で値動きが荒いという側面もあるが、この乱高下は明らかに思惑的な取引が過熱した証左だ。
証券ディーラーらに聞くと「山中教授の受賞がなかったことで、失望売りがかさんだ」との答えが返ってきた。もちろん、主要メディアが過熱気味の事前報道を行う前から、株式市場では「iPS関連銘柄」との投資リポートが出回り、これが個人投資家らの関心を集めていた。ただ「スウェーデン紙の転電が大量に掲載されたことで、追随買いに走ったネットディーラーは少なくない」(同)
株式投資は自己責任が原則だ。慌てて追随買いして損失を被った投資家を庇う意図は筆者にはない。ただし、先に触れたJ・TECだけでなく、iPS関連の銘柄は化学や医薬品など多様な業種に存在する。現地紙の情報だけに依存し、これを確定情報かと誤解させるような報道を手掛かりに損失を被った投資家は少なくない。
現地紙の報道を安易に転電した新聞・テレビの報道マンの多くは、株式市場と多くの投資家をミスリードしてしまったという意識は希薄に違いない。こうしたお手軽なニュース作りが、マスコミ不信に拍車をかけなければ良いのだが。
[相場英雄,Business Media 誠]
「この記事の著作権はBusiness Media 誠に帰属します。」
↑ ↑
さらにくわしく知りたい方は、こちらをクリック。