実に長い伊藤の謁見の次第は、要するに、会議の前の晩から宮中粛清の実行を始めた報告と、そこに至るまでの理由説明である。
まぁ、その経過の中で面白いネタが拾えているわけで、あまり文句もつけられまい。(笑)
さて、それでは前回 の続きから。


朴斉純参政大臣
閣下御謁見の後、自分等二三人御前に伺候したるに、陛下より閣下御奏聞の顛末を御話あり。
金叔旼(日+文)の事に関しては、朕が下賎なる者の虚説に耳を傾けたるが故に、斯かる結果を生じたり。
聞く所に依れば、彼は今軍司令官の許に拘留せられ居ると云ふ。
彼の如きは啻に日本の為めに不利益なるのみならず、我皇室に取りても不忠なる者なれば、取調の上、厳重に処分して可なりと仰せられたり。



この言い訳を見ると、「島夷敵臣伊藤長谷川」の書を高宗自身が書いたことを、否定していない。
その上で、「下賎なる者の虚説に耳を傾けた」やら、「我皇室に取りても不忠なる者なれば、取調の上、厳重に処分して可なり」やら、全ては『人のせい』。
前回 の「陛下が総ての政事に干渉せらるるの不可なる所以」を全く理解していないのだろう。
私ならば、「どの口が言ってるんだ?」と頬をつねり上げる所である。(笑)


閔泳綺度支部大臣
加之陛下は、金叔旼(日+文)は初め之を推薦したる者あり。
朕に彼を延見したるは、全く推薦したる者の言を信じたるに依るものなれば、須く此の推薦者を罰すべきものなり云々と宣せられたり。


伊藤統監
推薦者は、蓋し咸鏡南道観察使ならん。


朴斉純参政大臣
否茲に其の際下されたる詔勅の写あり。
御一覧を請ふ。
其の文に曰く

詔曰参領李敏和誤薦人材致損国体尚饌姜錫鎬従中周旋頗多爽実究厥罪状倶極痛駭并為先兔本官令法部拘拿懲辧

又宮中肅清に就ても、陛下は更に一の詔勅を下されたり。
其の文、左の如し

詔曰前後以肅清宮禁一事屡下勅諭而久輙懈弛終帰文具以致清雑是豈事体乎従今以後雖有実職而如非公事無得汗漫出入至於無実職之人雖曽経大官如非召命勿許進宮其外間散之輩若有無常出入如前犯科者直行拘拿定罪之意令主殿院及警務庁厳立規條恪遵施行


伊藤統監
宮中肅清の詔勅は、其の当を得たるものなり。
蓋し自分の奏聞を至当と認められ、斯の如き詔勅を発したるものなるべし。
然れども、金叔旼(日+文)推薦者処罪の勅詔に付ては、自分は妥当ならずと信ず。
勿論、推薦者も宜からざるには相違なきも、薦むる者あらば、何人にても之を採用すると云ふに至ては、則ち先に君主の過錯を示すものなり。
要するに、斯の如きは支那流の旧法に外ならざれば、自分は之を発せられざるを可なりと認む。
君主に取りて第一に必要なるは、人を視るの明に在り。



半年前からちゃんと実行しておけば、このような事もなかったかもしれない。
まぁ、実行力そのものに疑問符が付くので、伊藤の意見となってしまうのではあるが。

そもそも、推薦を受けた事自体を以て、その言を鵜呑みにしてしまうほど馬鹿な話は無い。
ところが、普通であれば登用した者がするであろう「判断」を放棄し、言われるが儘であったとするなら、高宗が王となって以降の朝令暮改ぶり、態度の豹変ぶりが、全て説明できてしまうのである。
これは推論に過ぎないわけだが、伊藤も高宗の事を「その言を鵜呑みにしてしまう馬鹿」だと、遠回しに言っているように見えるのは、気のせいだろうか?(笑)。


今日はここまで。


第七回韓国施政改善ニ関スル協議会(一)
第七回韓国施政改善ニ関スル協議会(二)
第七回韓国施政改善ニ関スル協議会(三)
第七回韓国施政改善ニ関スル協議会(四)
第七回韓国施政改善ニ関スル協議会(五)
第七回韓国施政改善ニ関スル協議会(六)