まだまだ日本語で読める電子書籍の

「ビジネス書」は少ないとはいえ、

電車内でiPadでビジネス書や新聞を

読んでいる人を見かけることが多くなってきた。


アマゾンの電子書籍専用端末「キンドール」が

今年の秋に、ようやく日本上陸となるので、

来年以降、「ビジネス書」の電子書籍化や

場合によっては、「電子書籍限定版」というのも

出てくるだろう。


では、効果的な読書を目的とした場合、

従来のような紙媒体の書籍と

電子書籍のどちらがいいのだろうか?


表現を変えれば、

どちらが記憶に残りやすいのか

ということである。


一般的な意味での読書における

脳内での記憶システムを考えてみると、

文字を読むと言う意味では

印刷書籍も電子書籍も同じはずだ。


文字(時には写真や図版も)を読んで、

その意味を考えて

さらには、そこから著者が何を言いたかったのかを

推理するということが脳内で起こる。


さらには、自分の過去の経験などを

思い出して、「確かに、あの時の体験は

こういう意味合いだったんだ!」と

納得しながら、印象深い部分を記憶しようとする。


そういう意味では、

印刷書籍も電子書籍も全く同じだ。


だが、この「記憶する」という脳内作業において

明らかに印刷書籍が電子書籍よりも

圧倒的に優れている点がある。


印刷書籍だと、定価千円の新書本も、

1800円のソフトカバーの本も、

定価2800円というハードカバーの専門書も、

それぞれが読む前に見た眼で

違いが分かる。


手に持った感触も違う。


このイメージや感触の違いが記憶を助けるのに

大いに影響を及ぼしている。


ページをめくったときの紙の質感や

付属の栞(しおり)の色や触感さえも

記憶を助けてくれる。


敏感な人なら、匂いの違いにまで気付く

かもしれない(私の場合、CDなどなかった時代、

ロックのLPレコードジャケットの匂いが、

国内版と英国版とで全く違うことに気付いた。

印刷インクも紙も全て違うメーカー製なのだから

当たり前ではある)。


これらのことが、残念ながら

電子書籍では絶対ありえない。


新書もソフトカバーの本も

高額な専門書も同じように表示されるからだ。


受験勉強のことを思い起こせば、

ながら族でラジオを聞きながら勉強したとき

好きな曲がかかっていたときに読んでいた部分の

記憶が鮮明だったりしたことがある。


メモをとり、マーカーでアンダーラインを引きながら

読んだ方が、やはり記憶に残りやすい。

(電子書籍でも可能だが、指の動きに大きな差はなく

記憶に残り難い)


人間の記憶は、

目という視覚からだけでなく、

同時に聴覚や触覚、嗅覚など五感を

総動員した方が残りやすいということが

分かっている。


視覚という点からは、さらに別の違いも生じる。


仮に400ページの「ビジネス書」を読んでいる場合、

印刷書籍だと、50ページ目を読んでいる時と

350ページ目を読んでいる時とでは

開いている本の左右のバランスが違う。


よって、「あの本の四分の三辺りに書いてあった」

という記憶は、印刷書籍ではありえるが

電子書籍では何ページかを記憶しない限り、

画面で見える部分はどのページも似たりよったりで、

ざっくりとした記憶に結びつくことがない。


さらに、

印刷書籍上の活字の位置は

そのページ上で変わることはないが、

電子書籍では簡単にスクロールしたり、

拡大したり出来るため、

その文字の絶対的位置関係が記憶に残り難い。


印刷書籍の場合、

地色(紙の色)が本によって微妙に違う

(手元にある違う出版社の「ビジネス書」を開いて

比較してみるといいだろう。限りなく「白」に近い

クリーム色もあれば、薄い黄色っぽいものまで

いろいろあることがわかるだろう)ため、

誤字脱字の発見も含めて印象深くなっているが、

電子書籍はそうではない。


実際、パソコンの画面上だけでチェックして

問題ないと思って、プリントしたところ

思わぬミスに気付いた、なんてことも

よくあることだ。


ゆえに、現在の印刷書籍を

完全に100%電子化する意味はないし、

またしてはいけないのだ。


このことは、VHSビデオがDVDレコーダーになり

ブルーレイレコーダーやハードディスクレコーダーに

なっていったのとは違うということだ。


35mmフィルムカメラがデジタルカメラに

移行したというのと同列にしてはいけない

ということだ。


だからといって、

電子書籍を否定しているのではない。


タブレット端末に何十冊どころか何千冊もの

電子書籍をダウンロードして持ち歩くということは

検索に優れているということになる。


出先で、「確か、このことについて

先月読んだドラッガーの本にも書いていたよな。

正確には、何と書いていたっけ?」

というような時には、すぐ検索して

先月読んだ本の中からドラッガーをクリックして

スクロールすればいいだけのことだ。


これは、印刷書籍では

どうあがいたところで絶対に出来ないことだ。


自動車と自転車の共存共栄みたいな

そんな位置づけで読み分ければいいのでは

ないだろうか?


資料として、手元に持っていたり、

とりあえず流行りの本なので

「読みましたよ」と言いたいためなら、

電子書籍の方がいい。


逆に、覚えたい、学びたいというのなら

その本は、電子書籍ではなく、

印刷書籍にすべきである。


まぁ、おサイフに余裕があるなら

両方揃えておくっていうのもありだが・・・。