この記事は、中部大学教授、武田邦彦氏のブログから

記事の転載許可を得て、以前ネコペンギンのブログ

『幸せな成功のための魔法の杖』で連載しておりましたが、

2011年2月18日朝、アメブロによってそのブログが

突然削除されてしまい、ご紹介ができなくなってしまいました。


そこで、ウルフペンギンのこのブログで改めて

ご紹介していくことになりました。

なお、本文中の誤字脱字は訂正してありますが、

基本的に内容はそのままにしております。


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福島の被曝の問題が出てくると日本の医療関係者、

特に国立のガン研究の医師たちは

一斉に「被曝はたいしたことはない。

それより野菜の不足の方が発がんには危険だ」と

奇妙なことを言い出しました。


野菜とガンの関係については、

今から20年ほど前から研究が始まり、

初期のころには次の表にあるように

どちらかというと「野菜はガンを防ぐ」という研究報告が

多かったのです。


ウルペンのドリームピラミッド-野菜・果物の効果

<画像をクリックすると拡大表示されます>



それを受けて、マスコミなどを中心として

「野菜を食べよう!」という運動がはじまりました。

でも、もともと人間のガンの発生というのは

非常に複雑なことなので、

「野菜とガン」などという簡単な関係は

おそらく存在しないのではないかと思われます。


その証拠に、その後、調査人数が増えてくると

必ずしも野菜不足がガンをもたらさないという

大規模な調査が2005年以後は増えています。


ウルペンのドリームピラミッド-野菜と胃がん

<画像をクリックすると拡大表示されます>



ある程度、学問や科学というものを研究した人なら

わかることですが、ガンというのは非常に複雑な反応ですし、

一口に「野菜」といっても内容はさまざまですし、

また「野菜を食べたので、相対的に食事が減り、

その中に発がん性のものがあった」ということもあり、

その場合は「野菜」というのは要因の一つにはなりません。


だから、仮に初期の研究のように

「野菜を多く食べる人にガンが少ない」と言うことが判っても、

それ故に「野菜はガンを防止する」ということにはならない

ということです。


また、「それでも事実、ガンが少ないのだから」

というのも学問ではなく、最近の野菜の研究の中には、

カリフォルニア等の20万人の調査で、

野菜をとると病気の比率が高いという研究もあります。


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私は科学者として、少し別の見方をしています。

先回、「相関関係」だけでは何の結論もでないことを示しましたが、

科学では「因果関係」についても

常に同時に考えておかなければなりません。


人間は雑食性の動物ですが、

主として「肉、穀類(実)」などを食べる動物で、

「草」の類はそれほど取りません。

人間が野菜を食べるようになったのは

農耕文化に変わってからで、

日本ではさらに10世紀から15世紀になってから

意識的に野菜をたべるようになってきました。


草食動物ではない人間は草は消化できませんが、

コメ、麦、イモ、豆、リンゴのような「実(種)」は

主食や副食として積極的に食べてきました。


そして、多くの研究が示しているように、

動物の体は「数万年間の環境の中で

もっとも適切な防御系になっている」ということですから、

500年前頃から食べ出した「葉物野菜」などが

人間の体に良いということになると、

かなりこれまでの学問とは異なる結果と言えます。


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現在の日本ではほとんど宗教ではないかと思われるほど

「野菜主義」のようなものが常識化していて、

「野菜は健康に良い」というのを疑う人はいません。


そしてそれが「科学」や「学問」の裏付けがあると

錯覚をしています。

でも、そのような情報の伝え方は「知の侮辱」でもあります。


私は学生(研究生)に対して、

「「Aを変えればBがどうなるか」という実験の整理は危険です。

自分ではBに対してAが一つの因子として

関係があると考えていると、

どんな物でもある程度の相関性がありますから、

間違った結論が得られます」と指導します。


このようなことは「科学者の基礎教育」ですが、

現代の社会はあまりにも「知の初歩的制限」を無視したものが多く、

お医者さん、科学者や学者の方は

注意をされた方が良いと思います。


「takeda_20120208no.420-(9:33).mp3」をダウンロード


(注)記事のデータに一部に

(財)食生活情報サービスセンターのものを使わせていただきました。

(平成24年2月8日)
武田邦彦


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科学を学ぶということは、論理的思考法を学ぶということだ。


ところが、悪しき「ゆとり教育」のおかげなのか、

この日本では、算数(数学ではない)の苦手な大学生が

急増してしまった。


私立大学の経営戦略のためか、付属中学、付属高校と

推薦で進学させてもらった学生などの中は、

文系だからといって、

端から算数の勉強をあきらめてしまった者がかなりいる。


あるいは、大学側でも、

試験をするにしても、やはり英語や作文は重要視しても、

数学は最初から試験科目から外してしまっているところが多い。


ところが、現実の社会では、会計士や税理士だけでなく、

論理的な思考を求められる「文科系」の仕事は多い。


そこで、笑い話としか思えないくらい情けないことに

大学の1年で算数を教える大学が増えてきたのだ。


例えば、

23+45×67=

という問題で、足し算と掛け算の順序が分からない

というわけだ。


こういうような算数苦手、数学苦手な若者が増えた結果、

科学的思考が苦手、論理的な思考が弱い、

騙されやすい若者が増えてきたと言えるだろう。


さらに言えば、

相手と面と向かってディベート(論争)が出来ない、

避けようとする若者も増えてきた。


そんな相手なら、避ければいい、というわけだ。


かくして、この国には、

あの「ミスター・スポック」が嘆き悲しむくらい

「非論理的」な人たちが増えてしまった。


by ウルフペンギン