ヴァージニア州ワイズ郡(他にもアパラチア地域)では、

住民たちは、乏しいコーン収穫をより価値ある何か

(つまり密造酒) に変えることによって、

どうにか生きながらえることができた。

そして、彼らの多くが、

お互い同士緊密な協力関係で結ばれていても、

時には激しい口論や喧嘩が突然火花をちらすこともあり、

それが長期間続くこともあった。



ウルペンのドリームピラミッド-アパラチア地域

<アパラチア地域>


実際に、ナポレオン・ヒル誕生のちょっと前に、

ワイズ郡の Hartfields(ハートフィールド)と

McCoys(マッコイズ)という、

馬で2,3日かかる距離にある両地域同士での

ほんのちょっとしたイザコザから始まった

確執(最も悪名高き山岳確執)は、

それから約20年間にも渡って続いた。


そのせいか、かのナポレオン・ヒルも

後に自分の出身地について、

「三つの名だたる山文化(確執、密造酒と無知な人々)と

二部屋の丸太小屋」と言っていたのも不思議ではない。


「三世代に渡って、私の身内は

そこで生まれて、生きて、無知(無学と貧困)で、そして、

その地域の山を越えることなく奮闘したのです」と、

ナポレオン・ヒルは未発表の自叙伝に書いていた。


「彼らは、土によって生計を立てていました。

例え彼らが手にしたお金がコーンから作った

密造酒によるものだったとしても・・・。
それに鉄道や電話ももちろんのこと、

電灯や高速道路すらありませんでした」


ヒルは、自分が書いた記事や本、講演会でのスピーチで

自分の幼年期についてたびたび触れている。

幼年期の初期の頃(つまらなくてネガティブ)の彼の思い出は、

彼自身が語った、「無一文から大金持ちになる話」に

劇的な印象を与えるのに大いに役立った。


それ以外にも、その苦い思い出は、ナポレオン・ヒルに

子供でありながら、山文化の環の外側にいるだろう人たち

の生活について、想像をたくましくさせる効果があった。



(つづく)


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【参考文献】

A Lifetime of Riches: Revised Edition/Michael J. Ritt
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ナポレオン・ヒルという人物は、

名前がよく知られている割にはその実像ははっきりしない。


アンドリュー・カーネギーのように

近代以降、存命中に成功した人は

本人の意向か周囲の意向かに関係なく、

自伝を書きたがる傾向にあるが、

中には、エジソンや最近のスティーブ・ジョブズのように

いろいろマスコミ向けに話すことが多かった割に

自伝を書かなかった成功者もいる。


事業で成功するということと、

正直に自分の人生を振り返って言葉で表現する

ということは違うということもその理由だと思われる。


但し、スティーブ・ジョブズの場合は、

優秀な伝記作家である、

Walter Isaacson(ウォルター・アイザックソン)の

インタビューに答えるという方法で伝記を残してくれた。


さて、同じように存命中(中年になってからだが)に

成功した、ナポレオン・ヒルだが、

彼の「自伝」は今もって出版されていない。


晩年は、全米各地でのセミナーや講演会で

忙しかったとはいえ、自伝くらい書く時間はあったろうにと

素人考えでは思ってしまう。


実際、調べてみると、

彼がタイプライターで作成し、手書きで修正を加えた

「自伝」の原稿が残されていることが分かった。


ところが、その「自伝」の出版を

遺族の一人であり、ナポレオン・ヒルの三番目の妻だった、

Annie Lou Hill(アニー・ルー・ヒル)が許可しなかったことで、

未だに我々は読むことが出来ない。

(彼女はナポレオン・ヒルの書籍の印税管理相続者。

 ちなみに、ナポレオン・ヒルは、彼女と離婚した後に

81歳で彼女の妹、レイラ・ベン・ハッチャーと

結婚している!生涯で4度目の結婚だ!)


しかし、晩年のナポレオン・ヒルの秘書だった

Michael J. Ritt Jr.(マイケル・J・リット・ジュニア)は

ナポレオン・ヒルの死後、遺族の許可を得て

その原稿を読むことができた。


そこで、その「自伝」そのままでは出版を

アニー・ルー・ヒルが許可してくれないため、

マイケル・J・リット・ジュニアは、

その自伝を読んだ記憶や直接接していた時の

ナポレオン・ヒルとの会話などの記憶を基に

彼の伝記を書くことにした。


但し、調査も含めて単独ではうまくまとまらず

ジャーナリストでフリーの作家でもある

Kirk Landers(カーク・ランダーズ)の協力を得て完成させたのが

1995年初版の”A LIFETIME OF RICHES”だ。


これまた残念なことに、

あれほどナポレオン・ヒル関連書籍をいくつも出版し、

なおかつ「ナポレオン・ヒル成功プログラム」と題した

超高額通信教育講座でも大儲けした出版社である

「きこ書房」は、17年経っても日本語訳を

全く出版しようとはしない。


アニー・ルー・ヒルが自伝の出版を許可しなかったのも、

この”A LIFETIME OF RICHES”の日本語訳を

きこ書房が出版しないのも同じ理由からだと思われる。


それは、「イメージが壊れる」からだ。


あの「経営の神様」と言われた松下幸之助も

現役時代に多くの経営判断ミスを犯しており、さらに

成功してから東京などに何人も愛人を作り、

子供まで生ませて認知していたことが

最近になって分かってきた。


その上、「松下政経塾」の初代塾長を

彼が尊敬する池田大作にお願いしていたことまで

週刊誌などで明らかにされた。


成功者のその「成功」によって(寄生して)、

本人が亡くなってからも多くの人が

お金儲けをしているため、やはり成功者の実像は

一般大衆には知られて欲しくないというのが

本音に違いない。


そこで、このナポレオン・ヒルについての

今のところ唯一のこの伝記を少しずつ紹介していく予定だ。