一年で最もワクワクする一週間が来た。この時期になると、その年を振り返ると同時に、悪友N氏のことを思い出す。初めて馬券を買ったのは、長崎新聞社入社4年目で運動記者だった1995年の有馬記念。当時「ギャンブルは悪」という価値観に縛られていた私が、同年の有馬ウイークに職場でスポーツ紙の1面を何となく眺めていると、背後から「競馬は最高っすよ」と弾んだ声が。振り向くと、声の主は同年新入社員で報道記者のN氏だった。N氏は、ナリタブライアン、ヒシアマゾン、タイキブリザード、ジェニュインなどの有力馬の戦歴や特徴、馬券のいろはを目をキラキラさせて話を続けた。「有馬記念をプロ野球に例えると、オールスターゲーム。運動記者で馬券を買わないとモグリですよ」。N氏の挑発的な発言に「ゴーゴゼットから馬連勝負だ」と乗せられ、ついに「自分の法」を破ってしまった。
N氏は続けた。「僕は天皇賞・秋でお世話になったサクラチトセオーが本命です。堀江さんはなぜゴーゴゼットなんですか?」。「名前がカッコいい。それと前走のアルゼンチン共和国杯で有馬記念と同距離の2500メートル戦を勝っているから」と答える私に、彼は「悪くないと思います」と言った。しかし目は笑っていた。「来るわけないじゃないですか」という心の声が聞こえた。長年の競馬ファンならご存知の通り、勝ち馬は、その年の菊花賞馬マヤノトップガン。N氏の本命馬は後方から追い込むも3着。私のゴーゴゼットは全12頭中8着に終わった。
それ以来、N氏とはよくつるんだ。夏と冬の小倉競馬場には毎年のように通い、競馬を楽しんだ夜はご当地グルメを堪能。府中や中山、阪神競馬場へも一緒に遠征し、テイエムオペラオーが勝ったジャパンカップなどGⅠレースを生で観戦した。グラスワンダーが勝った1998年の有馬記念では、私はグラス、N氏は2着のメジロブライトから勝負し、2人とも4430円の馬連を的中させた。その年の年末はN氏の赴任する小浜を訪ね、オーシャンビューの露天風呂に2人でつかり、至福の時に浸った。悪友N氏とはブログでは書けないヤンチャもやった。思い出は本当に尽きない。
N氏をしのぶみたいになってしまったが、彼はまだまだ健在だ。会社では大所帯の部署で部長を張り、立派な大人?になった。私は7年前に「一か八かのギャンブル気質」に流され、会社を中退し、開業社労士になった。今の自分があるのは、N氏と有馬記念のおかげかもしれない。きょうから有馬ウイーク。発走直前まで予想するのを楽しむのが競馬の醍醐味だと思っている。当たれば最高、ハズしたら仕方ない。レース後の反省会も、いとをかし。私と恩人N氏のエピソードのように、どの有馬記念も馬券を買うすべての人のドラマと併走しているにちがいない。