はじめての寮生活
ビリージョエルの曲にも出てくる小さな田舎街にある学校での寮生活がはじまった。見渡す限り芝生と池と木々があるだけで、当然ながらコンビニもなかった。空はどんよりして、何か寂しさを感じさせる場所だった。 寮で指定された部屋に行くと、背の高くて、母親にデレデレしたペルー人の青年がドアのところに立っていた。ハビヤーという名前だった。りんごを片手にもって食べながら、「Nice to Meet you」と言ってきた。正直、こんなやつと一緒に寝泊りにしなきゃならいのかと思うと、なんだか気持ちが萎えた。 ハビヤーは、今まで生きてきた中で家族以外と暮らす最初のルームメートだった。こいつとの寮生活は、ボクの指で三省堂の英和和英辞書をこれ以上つかったことがないと思うくらい、使い倒した。英語で喧嘩したり、交渉したり、とにかくありとあらゆる会話をするために、肌身離さず持ち歩いた。 寮は二段ベッドで、上に寝るのか、下に寝るのかさえ、全て交渉だった。子供だった頃は、当然上の方を選択していたが、毎日の生活となると、登り下りを考えると絶対に下段が便利だった。ハビヤーはオレは190cmあって、身体大きいから下じゃなきゃダメなんだと言い張ったが、結局ジャンケンで決めて、ボクは下になることができた。 ハビヤーは毎晩ベッドをギシギシさせながら寝返りをうち、寝る際にナイキのスニーカーを脱ぐ足は、なんとも言えない臭ささで、外人の体臭は今まで経験したことない臭さだった。 寮では、当然ながら洗濯も自分でやっていた。ハビヤーの選択がまたユニーク極まりなく、ランドリーボックスに入っている服を嗅いで、仕分けをしていた。なにやってるの?と聞くと、臭うかどうか調べてるんだと言っていた。ボクは、汚いからランドリーボックスにいれてるんじゃないのか?と思いつつ、ハビヤーの奇行には全く理解できなかった。鼻詰まりの日でも続けてたので、尚更ボクの頭はクエッションマークだらけだった。