東京駅日本橋口から徒歩10分、三井住友信託銀行の厳かな建築の横に、三井記念美術館の入り口はありました。

 

開館14年目と、比較的新しい美術館ながら、建物自体は130年以上の歴史を持つそうで、1階のフロアに溢れる威厳に満ちた空気に、展示への期待が高まります。

 

今回の展示のテーマは 素朴絵

これは、「ゆるくとぼけた味わいのある表現」を持つ作品を時代横断的に表現した、本展における造語で、一般に美術史上でアンリ・ルソーなどが分類される「素朴派」とは別物です。

 

 

この展示では、美術史的には本流ではないものも多いけれど、「こんなにゆるくてかわいい日本美術もあるよ〜」というメッセージを持って、肩の力を抜いた新たな日本美術の鑑賞を提供してくれました。

 

さて、フロアの奥に進み、100年以上前のままだというエレベーターを使って7階まで上がると、いよいよ展示が始まります。

 

展示は、ワンフロア、7つの部屋に分かれており、「立体に見る素朴1」→「素朴な異界1」→「絵巻と絵本」→「庶民の素朴絵」→「素朴な異界」→「知識人の素朴絵」→「立体に見る素朴2」という流れで構成されていました。

 

では早速、展示を見て私が気になった作品を以下に紹介します。

 

 しゃんてのトキメキ ❶

《 男神・女神坐像 》

日御崎神社の宮司の家から出てきたという171体の神像。そのうち、数点が前後にフォーメーションを組み、展示されていました。その中で私は、右の展示ケースの4人組のうち、左上のお方が好きでした。

 

写真が示せず残念なのですが、前から見ると、まんまるのお顔にうっすらと細い目、鼻とクッと結んだ口の線が彫られ、首だけを少し前に出して猫背な姿勢をしています。表情はなんとも言えない…穏やかなお顔で、着物を着てちょこんと座っており、手は胸の少し下でキュッと結んでいるようです。

 

まるで、座椅子に座ってテレビを観ながら、そのまま寝てしまったおじいちゃんのよう。ゆすり起こしたら、「寝とらんよ」って言って起き、そしてまたすぐ寝ちゃいそうな…夢とうつつを彷徨う浅くも心地よい時間を過ごしているかのような姿でした。

 

でも、後ろに回ってみると、なんと絶壁。柔らかい丸まった背中を想像していたのに。どこかに並べて、前から見ることのみを想定して作っていたのでしょうか。

後ろから見るとめっちゃいい姿勢、背筋のピーンと伸びた様子になんだかおかしくなっちゃいました。

 

彫りはとても浅く、粗いのですが、どこかほっこりする作品です。おじいちゃんにも見えるし、お地蔵さんのようにも見えてくる姿。そのゆるさがきっと、そんなイメージを膨張させ、想像の広がりを受容してくれるのだろうなと思いました。

 

男神・女神坐像《男神・女神坐像》の一部

 

 

 しゃんてのトキメキ ❷ *

《 神鳥・口取人形》

約3.5頭身の神様がいました。「エイヤッ」てポーズはなんともかわいい。踊ってるようにも、ガッツポーズをしているようにも見えます。小学校の時に踊った「ロックソーラン」にもこんな振り付け、あったような…。不自然でぎこちない感じの造形が愛おしい作品です。

《神鳥・口取人形》

 

 

 しゃんてのトキメキ ❸ *

《 月見布袋図》白隠彗鶴

この作品の写真はないのですが、よくある、布袋さんがお月様を見に足取り軽やかに出かけて行ってる絵です。墨一色で描かれたシンプルな描線は秀逸。布袋さんのまるまるとした体のラインや、布袋さんの背負った袋のようなものの曲線の滑らかさ、しなやかさは美しいです。

 

賛には「布袋船にのり、月見に出かけた所」と書いてあるそう。

 

少し小首を傾げて、ニッと笑うお顔には、充足感のような感情を見て取れ、そこには、幼い子どものような愛くるしさと、達観した穏やさ、おおらかさが共存しているのです。

色もなく、ディティールの描き込みもない。でも、最低限の狂いのない線は、見るものの足を止めさせ、ふっと彼のいる世界に引き込み、その愛嬌と包容力で途端に頬を緩ませ虜にする引力を持っているのだと思いました。

 

 

 しゃんてのトキメキ ❹ *

《 雲水托鉢図》南天棒

列をなして托鉢(仏教の僧侶がお経と唱えながら歩き、食べものを乞う修行)をする僧侶が描かれた作品。

これぞ、ゆるかわいい…。

この緩さはちょっと間が抜けちゃいます。多分一番前の僧侶でも、20画以内にはおさまっているんじゃないかな。仏教の厳かな感じはどこにもなくて、目なんて、点2つ。チョン、チョン、です。でも、構成はとてもリズミカルで、徐々に省略されていくグラデーションも絶妙です。

 

何より、小さくて丸っこいものがいっぱいいると、やはりかわいいんだなって。きゅんとくるものがあります。

 

ただ、この子たち、どっかで…会ったことある気がずっとしていました。

それで、家に帰って気がついたんですが…

 

高野山のマスコットキャラクター「こうやくん」とそっくりじゃないですか!

 

本当に似てる…。

 

《 雲水托鉢図》こうやくん

 

まだまだ素敵な作品との出会いはあったけど、ここではこれくらいにします。

 

この展示を見終わって、本展における「ゆるくてかわいい」という感覚は大きく2つに分けられると思いました。

 

1つは、原始的または独学的な作品に感じる 愛おしさ

前述の①②が当てはまります。

これは、幼い子どもに対する「かわいい」と似ていて、拙い技術に対して人間味を感じたり、応援したくなるような感覚です。

 

未完成な美というか、ツッコミどころを含む「隙」みたいな部分に、「好き」ってなっちゃう気がします。

何より作家自身は一生懸命作ってて、「ゆるかわ」を意図しておらず、そこに祈りや宗教的な意味を込めた大真面目な作品だったりして、そこがまた、一生懸命走るけど転んじゃう子どもを「かわいい」と思っちゃう感じかなと思いました。

 

 

一方もう1つは、あえて力を抜いてデフォルメし、「かわいい」を狙った大人なかわいさ

前述の③④もここに分類できるかなと思います。

落がきのようなノリで描かれるも、確かな技術に裏打ちされ、計算された最低限の線や要素で構成された作品。

何処か洗練されていて、余裕が感じられる、安定したかわいさです。

その作為的に作られたぬけ感やとぼけた感じは、鑑賞者の肩の力を抜き、指をさして笑うことを許してくれるような包容力を持っています。

これは、アニメや漫画のキャラクターに感じる可愛さに近いと思います。

 

ゆるい、かわいい、ってよく使う言葉だけど、意外と深く多面的な意味があるなあと感じました。

 

様々なゆるかわを見て、展示室では終始ほおが緩み、わかりやすい展示を気楽に楽しむことができましたが、展示室の第一印象は「イメージと違ってシックだな」というものでした。

「ゆるい、かわいい」「素朴」と言ったキーワードから、展示室はもっと、ふんわりした空気感で包まれていると勝手に考えていたからです。

壁紙がパステルカラーだったり、キャプションが可愛いイラストや字体で彩られているものだろうと考えていました。

 

でも実際は、普段通り、厳かでアカデミックな雰囲気の展示空間に作品が並べられていました。

キャプションもかっちりした明朝体で文体もかたく、その空間と、テーマに少なからずギャップを感じてしまいました。

 

また、ところどころに「素朴絵ひとくちメモ」という中くらいのキャプションが設けられ、「大津絵」や「旦那絵」といった語句を解説しているキャプションがありました。

これは、丸ゴシック系の字体で、文章も柔らかく、ふりがなをふり、題字にも青色や水色を用いられていました。

 

 

ただ、全体的にかたい雰囲気の展示空間の中、逆にちょっと浮いているような印象を受けてしまった気がします。

作品は比較的あたたかい印象で、暖色系なイメージなのに、字はビビットな青色だったりするのも、冷たい感じがして少し違和感を感じました。

 

それに、ふりがなや字体から、子ども向けのキャプションなのかもしれませんが、そもそも出てくる語句がちょっと難しすぎて、いくらふりがなふってもちょっと伝わらないのでは、と思ったりも。

作品キャプションや作品リスト等で子ども向けな要素がないので、ここだけ読んでも、子どもも何のことやらなのではないかなって思いました。

 

夏休みの企画展だし、テーマも作品も、見やすくて楽しいものなので、もっとポップな演出や、子どもの鑑賞者への統一された工夫があっても、より素敵なのになと思いました。

 

 

とはいえ、とっても楽しい展示だったことは間違いありません。美術史上のメインストリームじゃなくっても、当時輝いていた作品たち。

「愛おしい」方の作品は、まさか作った本人はこうやって何百年後かに「ゆるい」作品として展示されているとは夢にも思ってないだろうな…

 

天然なかわいさも洗練されたかわいさもあったけど、どの作品からも、癒しと笑いと元気を、たくさんもらいました。

 

でもね、もしかすると、1人でじゃなくて、誰かと一緒に行ったほうがよいかもな展示です。

「あれ見てよ、かわいい」「これどうなってんのー」「あの顔見て〜」なんて楽しい会話が弾みます。

一人で行くと、作品の前でほおが緩み、笑いがこぼれて、ちょっと怪しい人になっちゃうかも…?

 

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*ここで一句!*

アイニージュー 焦がれた君の 鋭い目 

トラりん帰京 落胆中

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左は京都国立博物館の公式ゆるキャラ「トラりん」

https://www.kyohaku.go.jp/jp/torarin/

 

このモチーフとなった長谷川等伯の《竹虎図》が今回出品されていました。

私はこの子の、ゆるキャラとは思えない、鋭い目つきが好きです。

だから今日会えるのを楽しみにしてたんですけど、展示は前期だけだったみたい。

会えると思ってたので、ちょっと残念でした。

いつか、京都に会いに行きます!

 

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日本の素朴絵  ーゆるい、かわいい、たのしい美術ー  

*2019年7月6日〜9月1日

*全作品撮影禁止

*一般:1300円、大学生:800円(中学生以下無料)

*東京駅より徒歩約10分、三越前駅より徒歩約1分

http://www.mitsui-museum.jp/gaiyou/gaiyou.html

 

*次回展*

「茶の湯の名品 高麗茶碗」(9月14日〜12月1日)

 

*はしごするなら…?*

・三菱一号館美術館

・東京ステーションギャラリー

・POLAミュージアムアネックス

・銀座のギャラリー      …など

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