風守~幸せの場所~ 8、肩の力をおろす時
「アリア、剣を離せ」
手が、剣を持つ私の手に触れる。
「そんなこと、する必要は無い。」
「あ・・・」
目を開けると、あの無表情な皇子が目の前にいた。
死のうと、
力を入れていた私の手から、流れるような手つきで剣を取る。
その剣をやんわりと横に置き、私の首からあふれる血をタオルで拭って止血してくれる。
「すまん、遅くなったな。アベルが道に迷うから探してたんだ。」
「すみません~アリアさん~~~」
アベルさんのいつもどおりの声を聞いて、少し力が抜けた。
そんな彼のほうをみると、ダンフィールが見事にその下敷きになっていて、
関節技・・・らしきものを決められている。
「だ、誰なんだ?!」
「アリア・・・他の傷、は、この男が?」と、ダンフィールの言葉を無視し、彼は不機嫌そうに言った。
「え?・・・っつ・・・」
ズキンと喉の傷が痛んだ。
言葉を発するのを痛みが邪魔をする。
―――待って、
この人 いえ、そういえばさっきアベルさんも
私をアリアと呼んだ・・・?
「ぃま、・・・なん・・・?」
「無理にしゃべらなくていい、アリア」
―――やっぱり、
でも、どうして・・・?
わからないけど
けど、
名前を呼ばれることが、こんなにもうれしい
うれしくて、涙が出た。
「泣くのはまだ早いぞ」
―――え?
「お前の姉は、俺の兄貴の嫁、つまりはウィングスタンの皇太子妃になってる。」
その言葉に、誰よりもダンフィールが反応する。
「な、なんだと?!!ウィングスタンの皇太子妃?!
う、う嘘だ!彼女は今、行方不明で―――・・・姉?」
姉、という言葉に、さすがの彼もその違いに気づく。
「トゥルアリアリーテは妹の方だろう?!馬鹿めっ!そいつはニセモノだっ」
勝ち誇ったようなダンフィールの声に、彼はふぅっとため息をついてそちらに向き直った。
「正確にはランフィスリーテの方だが。
お前の国は兄貴の結婚式に来なかったから知らないか。」
「で、そこにいる彼女が本物のトゥルアリアリーテ姫ですよ~」
と、アベルさんの陽気な補足が入る。
「―――な・・・っ?!貴様はっ、誰だ!!」
「さっき言った言葉でわからなかったのか?
兄嫁が皇太子妃なら兄は皇太子だ。
その弟なんだから、ウィングスタン帝国の第2皇子に決まっているだろう。
俺の国に皇子は二人しかいないんだからな。」
そう言って、彼はこの世界で誰もが知っている左腕の証を見せる。
「貴様が、アインファール・・・」
大国の皇子が、まさか自分の領地に侵入して、かつ目の前にいることに
ダンフィールは信じられないとでも言うかのようにその紋章を凝視する。
「・・・お、姉、さま、・・・いき・」
―――生きて、いらっしゃった。
「あぁ、生きてる。もうすぐ子供も生まれるぞ。」
信じられない気持ちでつぶやいた言葉に、無表情だけどしっかりと肯定してくれて、
姉が、しっかりと幸せに暮らしていることがわかった。