朝起きると口の中に鉄の味。

 

嫌な予感がして洗面所に向かう。

喉の奥から違和感の元を吐き出すと、洗面台は一面血の海に。

 

ついに来たかと思った。

 

俺は数年来逆流性食道炎を患っている。根治は難しい病気だ。

罹った時の症状はひどく重かったが、最近は落ち着いていた。

今では上手に付き合えているのかなと思っていた。

それだけに残念だった。

 

職場に遅刻する旨の電話を入れ、病院に向かう。

心の中で静かに皆にサヨナラを告げながら。

外気温は朝から30℃。セミの声が幾つも重なり合って鳴り響いている。

俺はあのセミより長く生きられるのだろうか。

 

朝一番で訪れた病院は、予想していた通りに空いていた。

すぐに診察室に通される。

先生に今朝起きた症状を説明する。

先生にもサヨナラの気持ちを込めながら。

 

 

先生「そうですか。。血の色は鮮血でした?黒ずんでました?」

 

俺「鮮やかな赤でした。。」

 

 

診察の結果。出血の原因は

 

 

「歯ぎしりによる歯茎からの出血」だった。

 

 

拍子抜けのあまり椅子から落ちそうになる。

寝ている間に起こった出血が喉に落ち込んでいたようだった。

体の奥からの出血であれば胃酸の影響で血は黒ずむらしい。

黒ずんでいなくても食道や肺からの出血の可能性もあるが。

俺の状態から見てそれはないらしい。

一応胃カメラの予約を入れてもらったが、心配しすぎる必要はないですよと言われた。

 

 

こういう勘違いは麻雀にもある。

手牌に赤牌が1枚あるだけで、バラバラのクズ手がさも豪華に見えてしまうこと。

聴牌までほど遠いのに、お宝手だと思い無理して攻めて、やられる。

今日吐き出した鮮血は、赤牌の色をしていた。

吐き出されたものが点棒じゃなくて良かったと思った。

そう思ってから「いやいや、やっぱり吐き出すなら点棒のほうが良いでしょう」と

思い直した夏の日の朝だった。