「非常の人 何ぞ非常に」@PARCO劇場、7/20昼(D8番)の感想です。

平賀源内が天才ゆえに苦しみ、杉田玄白は凡人ゆえに…、という前触れで、チケットをとったのに、特にそういう話ではなかった。脚本が残念なできであった。が、しかし、佐々木蔵之助の演技がすばらしかった。「お天気お姉さん」とかで見てると、いつもどおりだけど、わたし、蔵之助の舞台って初めて見るんだな。これはすごかった。本当にうまい俳優さんでした。


以下、ネタバレありです。





ストーリー的には、不世出の大天才平賀源内と杉田玄白の友情ストーリーに、他人を愛する気持ちを説くというもの。平賀源内は多才な人として既に認められていた中、杉田玄白が解体新書を翻訳してくれる通詞はいないかと、平賀源内に相談にくる。そうすると平賀源内は通詞でもそんな専門書は解読できやしないから自分たちでやるべきだという。杉田玄白は苦難を重ねつつも、翻訳を進めていったものの、出版・幕府への根回しなどの必要性には一切気づかず、そこを平賀源内がうまくやってあげ、挙句に「解体新書」という題名まで考えてあげる。

しかし、杉田玄白は、「解体新書」出版後、どんどん勝ち組になっていき、成功者となる一方、平賀源内は工事も中止、えれきてるは見世物扱いされ、大天才のはずだったのに、何も世に名前を残せていない。成功者となった杉田玄白が平賀のもとを訪れ、「世の名前を残すことが人生の意味ではない。それよりも、自分以外の人間を心から大事に思うことこそが人生の意味だ」と説く。平賀源内は「そんなことは、お前が成功しているからいえることだ」というが、杉田は「ようやく生まれた我が子は生まれつきの白痴で、世継ぎにはできず、長く生きられることもありますまい。しかし、私は我が子が愛おしくてならないのです。我が子のためなら自分の身を投げ打てる、そしてこれこそが生まれてきた意味だと思うのです」という。

平賀源内は、陰間茶屋で出会った陰間とねんごろになり、その陰間を人気役者にしてあげるが、「一度ぐらい、ちゃんと抱いてくれよ。あんたが誰も抱けないのは、あんたが自分以外の人間のことを大事に思ったことがないからだよ!」と捨て台詞をはかれ、捨てられる。引き止めない平賀だが、「引き止めはしないが、最後に、出版社のおやじとねげくれないか」と頼む。解体新書の出版を引受させるために、前から好きだった陰間を差し出すという。

そうして出て行った陰間だったが、あるとき、食い倒れて平賀源内の元に戻ってくる。平賀のもとで下男をやるものの、蘭書やら良い物を家から持ち出し金に変えて博打で借金をこしらえてくる。そんな下男を甘やかす平賀に、杉田玄白が意見をいうも、平賀は、自分以外の誰も愛せない者同士が肩を寄せ合って生きていると少しでもさみしさが和らぐのだという。平賀は通詞を雇うためにこしらえた50両を、下男の博打の借金返済に当て、下男に別に今すぐ逃げてもいい、どうせ俺とお前はそういう関係だから、という。下男は平賀に打たれ、心を入れ替えるというが、その後もいかさま博打をやり、それを平賀に知られたくないあまりに、大工を思わず刺殺してしまう。下男の代わりに殺人犯になった平賀は、すがすがしく獄死する、という話だった、まとめると。そして杉田玄白が最後に、「平賀源内は、平賀並みに能力のある人物に出会えなかったのが、彼の不幸の原因だ」という。


本当に、出来の悪い脚本だ。
天才ゆえの苦悩と、人を愛する喜び、これを両方描きたかったのかもしれないが、両方描けていなかった。平賀が天才ゆえに理解してもらえないというのが、まず描けていない。えれきてるが見世物になった以外、全く描けていないではないか。えれきてるが見世物になったところも、さっとしか描かれていなくて、手伝いの細工職人が偽物えれきてるを作って、悔しくて訴えたのに、見世物同士のくだらない争いと裁かれ、憤る佐々木蔵之助はよかった。ああいう部分を深堀しないと、天才の苦悩というものが出ない。
この本では、すぎたの方が、不器用に見せて、他人をうまく使い、勝ち組人生を生きた、性格の悪い男で、平賀はやさしすぎて他人に尽くしてでもそれでも納得して死んでいった男にしか見えないではないか。

才能の話なんて、全く伝わってこないよ。もっとさ、天才ゆえに理解してもらえない状況とか心情を描かないと、なんにもならないよ。ちゃんとしてよ。

あと、人を愛する喜びも、わざとらしいんだよね。ものを取られても許し、人殺しの代わりになってあげるとか、わざとらしすぎる、エピが。もっとさ、見ていて、「ああ、本当にこれが愛なんだな」って伝わるものがないと、「ああ、そうですか、お涙頂戴ね」と思ってしまうよ。「べっじ・ぱーどん」をみならってほしいよ。

そして、平賀源内は誰も愛せない人非人だったのに、菊千代と出会って人を愛せたというストーリーにもなっていなかった。どう考えても、初対面の菊千代も助けてあげ、杉田も助けてあげ、ただのいい人に見えたけど。
しかも、自分意外を愛せないから誰も抱けないって、なんか…。妻子を捨てて、その妻子がのたれじんでから誰も抱けないとか、なんかWeb上で素人が書いている小説みたいなストーリー展開だね。ちょっと気持ち悪かった。

杉田玄白はただ単に性格が悪そうだったし。脚本のレベルが低かったね。

しかし、佐々木蔵之助の演技は圧巻。びっくりした。杉田玄白に、自分の気持ちを吐露するシーンもうまかったし、最後もうまかった。細工職人にぱくられた悔しさとか、人を愛する気持ちとか、菊千代を愛していると最後まで認めないところとか、最後の最後のシーンとか、本当にうまかった。これはうまい。

蔵之助のこんなすばらしい演技を見れただけで、見に行ったかいがありました。

あと思ったのは、音楽が大きすぎる。あんなに音大きくしないでもいいのに。なんなの?はあ?

あとは、衣装が多かったね。あんなに衣装替えしなくてもいいのでは。替えるのも大変そうだし。まあ衣装には不満はないけどね。不満は脚本と音楽だね。

蔵之介がすばらしかった。