「Tick, tick BOOM!」の感想です。
9月29日昼G列2番@あうるすぽっと。

力強い舞台だった。歌唱力が際立っていた。
私が今まで見た山本耕史のミュージカルの中で、一番力強く、そして舞台を牽引していたように思う。パワフルに全曲を歌い切り、共演者をリード・サポートしていた。

というのが、全般の感想ですが、これからやや辛口というか、そういう感想になります。
やまこーのインタビューを読んで、「ttBは何かが起こるわけではない。ただ、『今』が大切なのだ」というようなことを語っていて、それは全くその通りだと思う。そういう『今』を伝えたいからこそ、『今』の生命力というか、生きている力というか、生きているさまというか、そういうのを全面に出したかったからの、この舞台演出なのだなというのはわかったし、それはそれで発想自体はよいと思うのだけれども、ストーリー性というか、観客への訴求力というか、お話のまとまり具合というか、ストーリーと歌の融合というか、そういうものは、初演の方が圧倒的によかった。

初演は、ジョンの焦り、いらだち、でもそんな中でも恋人と友人と普通に楽しくすごしている日常があり、でもやはり自分がまだ何者にもなれていないこと、ミュージカル作者としての目途が全く立たないことへの不安、しかしそれにもまして音楽への情熱、愛が伝わってきた。5年間ひたすら頑張ってきた「スパーヴィア」が企画化しないことへの絶望感。友達のマイケルもマネージャーも「また別の作品を書けばいい」というが、今からまた5年かけて別の作品を書くほどの気力は一ミリも残っていない。もう無理だ、もう限界だ、もう耐えられない、だけれどもミュージカルをどうしてもあきらめきれない。

そんな中、友達に八つ当たりをしてしまったジョンだけれども、友達がエイズにかかったという。友達が死にそうだ。どうしたらいいかわからない。ひたすらセントラルパークを走って、もう何がなんだかわからず走って、そうしているうちに、すーっと不安・怖さ・焦りが溶けていた。ソンドハイムからメッセージももらえた。友達がそこにいる。自分にはミュージカルがある。

っていう、ほんとうに美しいすてきな舞台だったなと初演を見たときは思った。

が、今回は、あんまりそういうストーリーが伝わってこなかった。ジョンの焦りというものがそこまで伝わってこなかった。ジョンの怖さがそこまで伝わってこなかった。不安・恐怖・焦りというよりも、「RENT」のような、まさにその一瞬一瞬のパワーが伝わってくる舞台で、それはそれでいいけど、でもやっぱり、ストーリーは伝わらないとなあと思う。

最初の30/90で不安・焦り・苛立ちというのは伝わってきたが、そのあとの歌とストーリーでそれがかき消されてしまい、で、また、ワークショップの直前になって、それが復活する。そしてワークショップで思うようには成功せず苛立ちが爆発するという感じで、ストーリーとしての線が感じられない、描かれていない。

ゆえに、いらだちを爆発させた後の、マイケルのエイズの告白、セントラルパーク、エンディングっていう、ここの流れも、すとんと落ちず、カタルシスがない。


だから、もしこれがやまこー演出じゃないとしたら、「演出家はttBの意味を理解していない。あれはただの歌唱ショーではないんだ。」とかって、私、感想を書いていたようにも思う。

でも、やまこーインタビューを読んでから見に行ったので、演出意図がよくわかった。やまこーは、RENTヘッズなんだと思う。RENTヲタと気持ちが同じというか、ファンと同じにRENTをジョナサンを愛している。しかもその辺のファンとは違い、かなりのコアヲタというかコアなファンなんだなというのを、今年1月のライブでものすごく感じた。とってもRENTを愛しているんだと思う。だからこその今回のttBになったのだと思う。ttBの芯を理解しているから、あえて大胆に変えてきたのだと思う。

そして、私は、彼は、いつも初舞台とか下手な人とばかりやっていて、そんなことをするより、厳しい演出家の指導を受けたりした方が、ずっとずっと演技が向上するだろうに、もっともっと高きを目指してほしいと思っていた。が、そういうタイプじゃないんだね。自分で演出した方が、パフォーマーとしてのレベルが向上するタイプなんだね。今まで見たパフォーマンスの中で一番良いぐらいのレベルだった。歌唱力はものすごい向上ぶりだし、その他のパフォーマンス力もすごく向上していたし、ものすごく舞台上でがんばっていたし、ひたすらの努力を見て取れた気がする。自分で演出する方がパフォーマンスが向上するタイプだったのか。知らなかった。

最初の30/90辺りを聞いて、すみれとジェロが、舞台慣れしていなくて、ちょっとこれは・・・と思ったが、やまこがうまくリードして、舞台の空気をひっぱっていって、たとえていえば指揮者のように、2人をうまく調和させて、その上でパワフルな歌を客席に届けようとしていた。グリーンドレスもよかったし、やまこの、そういう、統率力というか、リード能力というか、そういうのを非常に感じた舞台だった。そしてすみれの歌唱力に驚き。ものすごくうまい。ほんとにうまい。ただ舞台慣れしていないので、演技は演技になっていないが、あんなにおそろしいほど歌がうまくてパワフルですばらしい能力をもっていて、かつあんなにスタイルがよくて舞台映えするのだから、もっともっと舞台経験を積んで、ぜひとも良いミュージカル女優さんになってほしいなと思った。Mimiちゃんをやってほしいものです。

今回の舞台が、ややMimiの階段のミニ版なので、見るたびに、Out Tonightを思い出してしまった。ちゃんとしたMimiのOut Tonightと、AdamのRogerにもう一度会いたい。AP Rogerに会いたいよーーー。

話がそれてしまった。
ということで、やまこのパフォーマンスは非常にすごかった。すみれの歌唱力もすごいし、みんな歌がうまいので、3人で歌うところもすごくよいし、すごいよかった。
歌をききにきた感じだった。
ストーリーと歌があまり融合していなかったのが残念。
ということで、はっきりいって、見終わった後の満足感には乏しい。

だが、やまこはこれから毎年ttBを演出したらよいと思う。毎年やっていけば、3年後ぐらいには優れた演出家になる気がした。この人、ミュージカルの演出を今までと変えられる能力をもっているように思う。ただ今は荒削りすぎて、まだ駆け出しというか、うーんという部分が残ってしまっているので、もっともっと何回もやれば、ミュージカルの新しい演出、新しい境地を開拓できるように感じた。がんばれ。
しかし、ttBとかRENTみたいに好きな作品を演出した方がいいと思う。そして、ゴッドスペルみたいに自分はほとんどパフォーマンスしないとすると、なんだか小さくまとまってしまいがちなので、自分がパフォーマンスしつつ、演出して、好きな作品に情熱的に取り組んでいったら、きっと、今までにない演出をできる演出家になれると思う。演出家というよりパフォーマーというか、そういう視点からの演出をするように思う。がんばってほしい。