前から書こう書こうと思っていたのですが、書いていなかったRENTの感想をさらに追記。

東宝2010RENTがすばらしくて、とくに福士くんのMarkがあまりにすごかったのはほんと良かったですが、そして2010は2008と違って、エリカのおかしい演出もかなり改善されていましたが、それでもやはり許せなかった点を一つだけ。

それはMarkの「さみしさ」の解釈です。

エリカはRENTをわかりやすくするって言っていて、だからRogerが街から逃げるのはBennyに嫉妬しているからという理由だけにしているような解釈をしたり、Markがさみしいのは恋人がいないからだっていう解釈をしたりしていましたが、やっぱりそれじゃだめだと思う。

Markがさみしいのは恋人がいないからじゃない。

恋人がいるいないなんて、そんな一事じゃないんだよ。人間が淋しいって心から感じるのは、そんな、恋人がいないとかいるとか、そんな表面的な話じゃなくて、友だちがたくさんいるとかいないとか、そんなくだらない話じゃなくて、もっともっとつらくて根源的な話だと思う。

恋人がいなくて淋しいって、さ、淋しいのレベルが違うよ。
La Vie Bohemeとかその他で、他のカップルに対比して、Markが一人でいるところを強調していたけど、別にそんな恋人なんていてもいなくても、人間が心底淋しくなるほどの、そんな話じゃないんだよ、そんな悩みをMarkの舞台を通した悩みとして描かないで…。もういやだよ。

すっごく淋しくて悲しくて、このまま自分は一生一人じゃないかと思って、まわりに友だちがいても孤独を感じて、もうどうしようもなくて、誰も自分をわかってくれないし本当には愛してくれないんじゃないかと思って、でもMarkはすごく優しい人だから、それでもやっぱり友だちを思って、Rogerを心配して、それなのに真実を言われたRogerにある意味八つ当たりされて、「お前は人生から逃げてる、孤独から逃げてる、偽りの人生を生きていることから逃げてる」「いっつも自分のコミュニティーを作りたいって憧れて、結局カメラ抱えて一人じゃないか」って言われて、もうくやしくて。

でも、Markがあそこまで淋しくて悲しいのは、一人だからじゃない。
ほんとは、結局Rogerが言った通りで、自分が自分から逃げているから、自分自身が自分を認めていないから、自分の気持ちを理解しようとしないから、だから苦しいんだ。

すばらしいエッジの効いたドキュメンタリーを撮りたいって思っても撮れるわけじゃない。自分に才能がないんじゃないかっていっつも心の底では思っていて、でも撮りたいって思って、お金もないし、段々としもとってくるし、このままこの生活を続けていていいのだろうかって思って不安で、でもやっぱりドキュメンタリーを撮りたくて。

でも、Maureenの事件からワイドショーのビデオを撮れることになって、毎日忙しく仕事をこなせて、お給料ももらえて、充実した毎日を送っているように自分では感じていたけど、やっぱり違って、でもそれは気づかないふりをして、友だちは、「Markは仕事に恋しているんだね」「Markは仕事大好きだね」とか、今の仕事を認めてくれるようなことをいうけど、でもやっぱり自分は、才能ないかもしれないけど、でも自分が撮りたいものを撮りたくて、でもそれも怖くて、もうどうすればいいかわからなくて、感情に気づかない振りして、自分を殺して、日々忙しくして生きているけど、もうそれがつらくて、もうなにもかもやで、もうどうでもよくて、どうしたらいいかわからなくて、なんでこんなに淋しくてつらいんだろうと思って、Rogerに本当のことを言われて、むかついてくやしいけど、別にRogerに言われたからじゃなくて、自分もやっぱりこれじゃ、自分の思う生き方を偽っているだけだって思って、このままじゃ、ただ他人の言う「それなりに幸せな生活」をただ模倣しているだけじゃないか、ただ猿真似しているだけじゃないか、それを真似して自分の気持ちも満足だってごまかしているだけじゃないか、自分にはもはや何の感情もなくて、ただ人の気持ちを借りて、ただ猿真似してごまかしているだけじゃないかって思って、

でも、あの夜、あのLa Vie Bohemeの夜は違ったし、自分だって、ただ、自分の思うままに、Artが好きで、それで楽しく皆と一緒に即興で楽しくやって、それで、現実にArtが打ち勝てて、そうだ、そんなときもあったし、きっと今でもできるって思って、I quit!、偽るのはやめだって思って、

Dying in Americaだからこそ、自分の人生を生きるんだって、それこそがRENTのMarkだと私は思う。

エリカの解釈じゃそんなの全然出ないじゃん。恋人ができれば、Markの苦悩は終わるの?恋人さえできれば、孤独は解消されて、淋しくなくて、バズラインで仕事続けられるの?もうドキュメンタリー撮るのやめるの?
自分の仕事を愛していて友達思いのMarkはどこ?

と、思う。

最後に話変わるけど、Markってほんといい人で大好き。
前に外人の感想サイトみたいなのを見たときに、Markが、友を待っていてくれるからみんな家に帰れるって書いてあって、CollinsもRogerもMarkが待っていてくれるからNYのおうちに何ヶ月かぶりでも帰れるんだってあって、ほんとそうだなって思った。

そんな心優しい、友達思いのMarkが、あんな悩んでるんだよ。それが、ただMaureenと別れて以来恋人ができないなんてそんな単純な理由で、あんな悩むわけないじゃん。人間の悩みって、そんな単純じゃないと思うし、でも、淋しいとか自分は孤独だとか一人だって思っても、実はそんなことなくて、ただ自分が勝手に自分の檻を築いているだけで、ちょっと怖いけど、Jump Over the Moon! 全力で走れば月も飛び越せるよ、ってそれがRENTのように私は思う。