「なにわバタフライN.V」をシアタートラムに見てきました。2/27E列。

すばらしかった…。

本当にすばらしい舞台でした。

お話としては、ミヤコ蝶々の半生を描いたお話で、父親や二人の夫とのことなどが中心に描かれた一人舞台。

ミヤコ蝶々の半生事態も興味深いといえば興味深いが、この舞台に魅力はそこにはとどまらず、さりげない深みにあると思う。

一見、ただの女優一代記っぽいというか、ミヤコ蝶々が女として生き芸人として生きた、その半生に目を奪われがちではあるが、その生き様がどうの、その出来事がどうのということよりも、明らかに狙った台詞も見あたらないというのに、この深み…。これは本当にすごいことだと思う。

「コンフィダント」もすばらしかったけれども、「なにわバタフライ」よりも「コンフィダント」の方が、主題が明確で、かつ狙った台詞や場面が多々見受けられたのに対し、「なにわバタフライ」では、そういった明確な主題をあえて抑え、一見してわかる明確な台詞や見せ場をあえて設けていないのに、それなのに非常に丁寧に練り込まれているがゆえの、この深み。一見ただの女優一代記に見えるのに、そうではないこの深みは本当にすばらしいと思った。あざとさがない、狙いが前面に出ていない、そんな大人感が出ていたように感じられた。

一人舞台の形式も非常に秀逸だった。

主人公の初恋の人ボン、相方兄やん、父親、最初の夫、最初の夫の先妻、二番面の夫、二番目の夫の浮気相手…。それらの人物が出てこないことが、かえって舞台をいきいきとさせ、主人公の人となり、人生に対する姿勢、ひたむきに前を見て生きる潔さ、孤独の悲しみ、それを乗り越えての昇華しての生き様、芸への姿勢、そういったものが、非常にいききと描かれていたと思った。

脚本としては、こんなに笑いも、狙った台詞も、狙った場面も抑えているのに、こんな深みが出せるだなんて、本当にすばらしい脚本だと思う。

「コンフィダント」や「グッドナイトスリイプタイト」を見た時も思ったが、年を重ねていろんな経験を経たからこそ、こんな深みのある作品がかけるのだなと思い、若さゆえの斬新さ、笑い、キレだけでない、このすばらしい深みのある脚本は、本当にすばらしいと思った。人生を重ねるとともに、こんな深みのある本が書けるとは、なんとすてきな人生だろう。それほどすてきな年の重ね方をしてきているという証だろう。

と思ったが、この後家に帰って「ショーマストゴーオン」を見たら、それはそれで、やはりじーんと来るいいお話で、これもよい話だなと思った。若さゆえの青さみたいなのもないし、「ショーマストゴーオン」も深いといえば深い。でもやっぱり「なにわバタフライ」の方が円熟した深みかなぁ。でも「ショーマストゴーオン」の頃から、一見どたばたでも、じーんとくる深みのあるお話をかける脚本家だったんだなあと、つくづく思った。

本当にタレントフルな劇作家さんですね。

ストーリーへの感想としては、いろんなつらいことがあり、自分としてもヒロポンをやったり駆け落ちしたりと軽はずみなこともして、いろいろ人を傷つけ、自分も傷つけ、いろんなことがあったけれども、でもやはり、人生に対して精一杯ぶつかって前へ前へと進んでいった、その力が、舞台にもみなぎっていた。ありきたりな強さや力強さではなく、あくまで表面的に見れば、そこまでエネルギッシュな激しさは感じられないのに、内面に秘めた、その人を支える強さ、力が、心に染み渡るような舞台だったと思った。

人生いろんなことがあるけれども、自分としてただ生き抜くだけであり、それができたら、どんな結果になろうとも満足のいく人生であろうと思える、そんな舞台でした。

って、「新選組!」でも、自分の信念に従って生き抜けば、たとえ斬首になろうが賊軍になろうが、綿人生に一点の悔いもなし、というのを感じたし、

RENT」の♪Another Day

I live this moment as my last

I cant control my destiny

I trust my soul

My only goal is just to be

と同じ感想になってしまいましたが…。

自分を信じて生き抜くだけ(RENT Tourの訳だが、とても気に入ったw)。

人生とはそんなものなのかもしれません。

運命はコントロールできないし、何が起こるかはわからない。なんとなく見えていた自分の人生が、突然何も見えなくなることもある。もうこのままどうにもならないのではないかとうちひしがれることもある。つらくて立ち上がれないこともある。

でも、ただ月を見て蛙を見て、そしてあなたがいるだけで、なんて人生は美しいのだろうと思うこともある。

いろんなことがあるのが人生だけれども、自分を信じて自分の人生を生き抜くだけ。そしてそれができたのなら、どんな結果になろうとも、満足行く今日をおくれたのなら、我が人生に後悔なしといえるのだろう。

って、私はストーリーへの感想を長々書くのが大好きだというのに、この話はそういう話というよりも、いつもの三谷モノよりも、さらに観客に開かれた話のように思った。いつもの方がより主題が明確だけれども、今作は一人の女の生き方を提示して、決め台詞も決め場面もあえて狙った感を出さずに描くことで、もっと観客一人一人にいろいろと考えさせる、観客に対して開かれた舞台のように思った。

シンプルなセットも、相手役が出てこないところも、一見してわかる狙った台詞がないところも、すべて緻密に構成されたゆえであり、それにさらに戸田恵子のすばらしい演技が伴って、とてもすばらしい舞台になっていたと思った。

戸田恵子は本当にすばらしいですね。

「グッドナイトスリイプタイト」の方が、「うわぁ」と観客をうならせるような演技のようにも思いますが、それは狙った台詞や場面が多いからで、今作みたいに、しみじみと心にしみる深い話に合わせたすばらしい演技だったと思いました。

三谷モノだと「また戸田恵子」と思うような繰り返しキャスティングですが、しかし「グッドナイトスリイプタイト」のあのすばらしい演技を見てしまってからは、そりゃ当然戸田恵子だろうとしか思えない演技でした。今作も本当にすばらしかった。構えずしなやかに演技する女優さんのイメージ。

チラシに、三谷が翻訳劇やるっていうのが入っていて、それが戸田恵子と石黒賢ですが、まあね、三谷が信頼するのもわかる女優さんだな、と。

TALK LIKE SINGING」との重なる上演となりましたが、あっちはあっちでエンターテイメント性を志向し、こちらはあえて主題を前面に出さない、深みのある舞台ということで、とてもよい感じでした。

「グッドナイトスリイプタイト」→「なにわバタフライ」と見ると、また「君となら」のようなファルス系の三谷モノが見たくなります。

って、まあ「新・三銃士」のつりばしの回とか、まさにやりたいだけやりましたwみたいなファルスかな。ただ舞台でまた「君となら」みたいなのを見てみたいです。って「君となら」は映像でしか見たことないけどw

「グッドナイトスリイプタイト」もよかったなあ、「コンフィダント」も良かったなあ。「新・三銃士」もいいしなあ。

TALK LIKE SINGING」はせっかくのBW公演もしたというのに、脚本が後半若干弱かった機がして残念。もっと練ればいいのにとかって偉そうに思ってしまうけれども、こんなにタレントフルな劇作家さんでも練ればいいというものでもなく、ひらめきとかそういうのが落ちてこないとどうしようもない部分もあるのだろうか。

今度さ、脚本書くとことか、お稽古するところとか、そういうお芝居ができる一連の流のドキュメンタリーみたいなの、どっかでやってくれないかな。「情熱大陸」よりもっと詳しいやつ。

しかし本当に、良い舞台でした。

最後に。

休憩というか、戸田恵子に戻っての一息シーンで、「一人じゃない:が流れ、「ご覧になったことのある方、拍手をお願いします」と言われて拍手したが、そんなに拍手がなかった(2/5から半分ぐらいかな?)。戸田恵子は「微妙な数ですね」と言っていたw

客層としては、普通に演劇好きっぽい感じの層が来ていて、40-50代の夫婦とかも結構いた。三谷ヲタと戸田恵子好きだったら、「新・三銃士」を見ているに決まっているだろうから、あの拍手数ということは、特段三谷や戸田恵子のヲタではないが、まあまあ好きという人たちや、三谷や戸田恵子にこだわらない一般演劇好き層が見に来ているのかな、と思った。

まあ、とりあえず「TALK LIKE SINGING」よりもほっとする客席でした。