「出生届けか。血にこだわるのを否定するつもりはないが、生みの親よりなんとやらだもんな」
「これだけ育児放棄の話題がでたら、親子関係の定義が何なのかがわからなくなるわね」
「犠牲になるのはいつも子供さ。そんなに育児がつらいのなら、さっさと養子にだせばいいんだ」
「それも極端だけど、養子を取る側の要件はもうすこし緩和されてもいいはずだと思うわ」

養子縁組には二種類あり、普通養子と特別養子にわかれる。実親との関係継続か否かである。
前者は親が二種類いることになり、後者は養親のみ。特別なるがゆえに、そのハードルは高い。

「たとえは違うけど、ペットにも家族同然の感情をもつよね。愛情があれば、それでいいのよ」
「まあな。やっぱり賑やかな方が楽しいことには違いないからな。その分、苦労もふえるけど」
「結局、親子ってなんだろってことよね。子育てって、自分の人生の再発見だと思うのよね」

彼女いわく、それまで歩んできた人生の振りかえりを、育つ子供を見ながら確認させるという。

「私もお母さんのオッパイをこんな感じで吸ってたのかなとかね。覚えていない自分の発見というか」
「なるほどな。子供に叱るときは、自分の過去を同様に叱っているということか。じゃ、放棄することは」
「自分自身の人生を投げだしちゃうことなのよ。過去とどう向き合えるのかが、育児そのものかもね」

もちろん子供はクローンではないから、自我を肯定しなければならない。血の同一性はありえない。

「だから戸籍にくだらない表記は、はずしてもいいよな。親と子、それだけで充分だ。愛さえあればな」
「なんか募金したくなるようなこといってるけど、実際そうよね。でも、できたらあまり叱らないでよね」

未来の話をいましてもしかたない。ただ、どんな状況になろうと親にはなってみたい。彼女ととともに。