「とにもかくにも、ようやくアワビ粥にありついたわけだが、ちょっと期待しすぎたようだ」
「最初は雑炊っていってたよね。勘違いだったけど、お粥なら味が薄いのもしょうがないわ」
「まあ、どこまでも胃にやさしかったが、財布にはやさしくないなあ。特盛りで約1500円だ」
「私の注文したのとくらべて、アワビ三個が五個に増えただけだもん。ちょっとガッカリよね」

観光地価格といえばしかたないが、円安の今では全般的に釜山旅行にお得感はなかった。

「ほとんど日本の物価と変わらなかったぞ。とくに食事はな。あれだけ屋台に期待したのに」
「そうねえ。ちょっとしたオヤツが二、三百円だもんね。すくなくともあの屋台街は高かったわ」
「いわゆる東南アジアのような簡易食堂じゃなく、イベント用の屋台だよな、値段設定は」
「雰囲気を楽しむというか、屋台で食事するっていう場所代がプラスされているのよね」

いわば祭りの出店や博多の屋台街に近い。そこでの食事は総じて通常より二倍ほど高くなる。

「ただ、しっかりとした選別眼があればそれなりに安いんだよな。あの天ぷら屋はよかった」
「天ぷら10娘と巻き寿司二本に、ビール二本だったっけ。二人で1000円くらいだったもんね」
「よく覚えているな。オバちゃんたちも愛想がよかったし、しっかりと味がついていたしな」
「あれはなんだったかなあ。シソの葉にご飯と何かを一緒につめて巻いていたよね。目の前で」

おそらく店で出すものだろう。娘のような年齢の女の子へ、母親だろう店主が作り方を教えていた。

「ああやって、一子相伝されるんだよ。ただ娘の代には、辛いものを極力すくなくしてほしいよ」
「ほとんどのオカズが赤かったものね。でもいいなあ、親子って。私もなんか思い出しちゃったわ」

異国の地だからこそ、故郷が恋しくなる。今度くるときは、そう言われる側になっておきたいぜ。