オーナーは6ヶ月

「とりあえず一泊目だが、なんて愛らしいオーナーだろうな。あんな出迎えられ方は初めてだよ」
「ゲストハウスって女にはちょっと抵抗があるけど、不安が一気にふきとんだわ。あの顔を見るとね」
「ああ。あまりの若さにびっくりしたが、各テーブルへきちんと挨拶に回っていたのは感心したよ」
「わずか6ヶ月だもんね。ちょっとやんちゃなところはあるけど、あの人懐っこさは素晴らしいわ」

彼の名はナンポー。釜山の繁華街に位置する通りで拾われた三毛猫だ。とにかくかわいい。

「ドアをあけた瞬間、いきなり足へまとわりついてきたから驚いたよ。カツオ節も持ってないのにな」
「たぶんスタッフの愛情を存分にあびているのね。心の底から人間を信用しているのよ、きっと」
「嬉しいよな。やっぱり海外だと何かと不安になりがちだが、もうこれで充分だ。猫は国境を超える」
「テーブルについた全員の足に体をすりよせてたよね。彼は本当にオーナーの資格ありだわ」

拾われた当初はかなりの人見知りだったが、一ヶ月もすると自然と宿泊客へなつき始めたという。

「ホテルについた瞬間、海外からきた客はたいてい緊張すると思うんだよな。チェックインのときにさ」
「何度もそのホテルやゲストハウスを使ってたら別だけど、すこしフォーマルな自分になっちゃうわね」
「言葉の問題もあるしな。そんなときにあの丸い顔を見せられると、誰もが頬をゆるめてしまうよ」
「よほどのことじゃないと邪険にしないから。だから、オーナーも安心して体をすりよせるのよね」

そんなことを喋りながらバルコニーからの夜景をながめていると、いつの間にかオーナーが足元に。

「おお、さっそく仕事を始めているぞ。もう、ぐっすりと眠ってやがる。こんなところで寝ると風邪ひくぞ」
「見てよ、この寝顔。すっかりあなたに安心しきっているのね。ちょっとジェラシーを感じちゃうわ」

それは俺に対してか、オーナーに対してか。それとも、まだまだ子猫と呼ばれたい自分に対してかもな。