「愛さえあれば、年の差なんてか。それにしても想像以上に若く見えたよな、あの嫁さんは」
「本当にそう思ったわ。まさか旦那様より、ひとまわり年上とはね。幸せそうだったよね」
「ああ
なんだろうな気持ちが若いというか、ポジティブというか。さすがは外人だけある」
「あの開放感あふれる爽やかな明るさは、あまり日本人にはないよね。とくに女性はそう感じるわ」

仕事先でしりあったユニークな経歴をもつ男性との酒席で、帰り際に奥方と会わせてくれた。
アジア系のオーストラリア人で、
主にビジネス英語を企業へコーチするフリーランスとのこと。

「たしか中国語会話教室で出会ったといってたな。運命はどこに転がっているかわかんないな」
「それを拾ったとするか、自分でつかみとったのかと考えるかだわ。間違いなく彼は後者だろうね」
「そりゃ、ネイティブの英語をしゃべるアジア系女性に声をかける勇気は、受身じゃできないさ」
「やっぱりコンプレックスが先立っちゃうのかしらね。気にする必要はないってわかってるんだけど」

言語はあくまでコミュニケーション手段の一つであり、それ以上の感情表現でなんとかなるものだ。

「実際に彼は、その時点で全く会話ができなかったと。だが一目惚れした勢いで彼女を落としたとな」
「いい話よね。愛さえあれば、年どころか言語や国境までも超えちゃうのか。ロマンを感じるわ」
「はじめて付き合った女性だともいってたな。どこまでも純粋な想いで押しとおしたってわけか」
「ちょっとまって、それは違うわ。それじゃ初恋以外の恋愛は、すべてニセモノってことじゃない」

そこまでのことを言ったつもりではないが、やけに絡んでくる。過去を問いただすつもりはないが。

「何を考えているのかしらないけど、二番目なんてないのよ。少なくとも私はね。つねに全力よ」

嬉しいやら、気になるやら。しばらくはその言葉を信じておくか、中秋の名月の美しさとともに。