「ちょっと、ごめん。助けて。まさかこんなところにとは思わなかったから。くやしいわ」
「どうしたんだよ、足をかかえてさ。どれ、なんだイモムシか。ちょっとかわいいじゃないか」
「いまの私に替わったなら、憎らしく思えるはずだわ。スリッパを履こうとしたら、いたのよ」
「こんな裏側にくっついているとはなあ。とりあえず取ってやったから、足をみせてみろよ」

どうやらトゲに刺されたらしい。チクリとやられてから、しばらくズキズキと痛むようだ。

「どうしよう。このまま毒が全身に回って、命を落としちゃうんだわ。先立つ不幸を許してね」
「あんな小さいイモムシがそんな猛毒をもつかよ。冗談は寝起きの顔だけにしてくれ」
「あら、ひどい。ふかく傷ついた。寝ているあいだくらいは許してよね。毒がありすぎるわ」

そばでオヨヨと泣くふりをする。痛むと力んで主張するわりには、結構余裕がありそうだ。

「私の名演技はおしまい。でも、すごいよね。あんな小さい体で身を守る術をもってるなんて」
「いまの一連の行動をみて、同様に思ったよ。女って、いつでも泣いて身を守るんだってな」
「バカ。それこそ冗談は、あなたのふくれたお腹だけにしてよね。生活の知恵といってほしいわ」

刺されてからしばらくたったが、それほど膨れているわけでもなく、痛みも引いてきたようだ。

「急激に患部が膨らんだら病院へ連れていくところだが、大丈夫だろう。ツバでもつけておくか」
「ああ、ダメ。急に痛みが増してきたわ。今日はもう歩けないから、私をケアしてね。お願いよ」

それにもうツバはつけられているわよと、ほくそ笑む。こら、イモムシ歩きまで演技しなくていいよ。