「やっぱり知らない土地を訪れるのは面白いよね。好奇心が満たされるというかね」
「そうだろう。今回は予習をせずに敢行したから、予断をもたずに体験できたからな」
「圧倒的な自然のなかを通り抜けるのは、本当に気持ちいいよね。風や匂いを感じられるから」
「車だと、どうしても視界が狭まるからな。視界全体に広がる初めての光景は、純粋に感動するよ」

もちろん、そのぶん危険は増す。峠越えは風や気温の問題があるし、つづら折りは怖い。

「さすがに寒かったよね。1500mだっけ、あの峠は。よかったわ、保温用の上着を持ってて」
「あのあたりは、もう本格的な秋だったよな。そう思うと切なくなるな、もうこんな季節かって」
「そういう空気を肌で感じられたから、よかったわ。道端に咲くコスモスもとてもきれいだったし」

おそらく10度ほどの気温差をバイクで駆け抜けたはずだ。そのぶん、体力的な負担が大きい。

「かなり疲れただろう。あのせまい雑魚寝部屋だと、あまり眠れなかったしな。今夜は早く寝ろよ」
「私は平気だったけど、あなたが大変だったんじゃないの。目が覚めたら、すでに起きてたじゃない」
「なんかさあ、やっぱり眠れないんだよな。あれだけ枕が固いのと、あまりに隣との空間がないとさ」
「へんなところで繊細だからね。でも、あれだけ大人数だと気をつかう必要はかえってないのよ」

それは承知だ。ましてや周りは日本人だらけ。貴重品は専用ボックスへ入れておけば、まず安心だ。

「でも、ちゃんと感謝してるから。気づいてたのよ、立て肘しながらずっと見守ってくれたことをね」

そういいながら、左肘をマッサージしてきた。大丈夫、普段からここは腕枕で鍛えられているからな。