「とりあえず戻ってきたが、雨がひどかったな。後ろだと前が見ないから怖かったろう」
「そうでもないよ、私はつかまるだけだから。それより運転ごくろうさま。お茶をいれるわね」

現地では台風をまぬがれたが、フェリーで帰港したときにちょうど強い雨にみまわれた。
ワイパーのないヘルメットでは雨滴をぬぐえないので、自然と前方に注意が必要になる。

「誰か開発してくれたらいいのにね。でも、目の前でやられたらかえって見えづらいかな」
「慣れるまでに相当時間がかかりそうだぞ。かえって、そのワイパーで事故ってしまうよ」
「たしか水滴をはじく専用のスプレーがあったんだっけ。あれって、実際に効果あるのかしら」
「それに合わせたシールドじゃないと、あまり効き目がないんだと。しかもあの豪雨じゃなあ」

とにかく無事に帰宅した。まだ残暑きびしいとはいえ、三十分も雨に打たれると体が冷える。

「どうだ、一緒に風呂へ入らないか。あの雑魚寝部屋だと、二人でゆっくりできなかったからな」
「うん、いいわね。まだ朝だからなんとなく恥ずかしいけど、今日ばかりはね。あたたまりたいし」

風呂にお湯を満たすまでのあいだ、バッグにいれた着替えやお土産などを整理していく。

「おお、わすれてた。そういや入浴剤を買ったんだっけ。よし、いま試してみるか。美肌効果をな」
「それを使いたいから風呂に入りたかったんじゃないの。あなたには必要ない気がするけどね」

たしかに女性の肌への効能が書かれているので、毛むくじゃらの男には効き目がないかも。
準備ができた風呂へ二人で入る。まだ冷える彼女の肌。保温効果は俺にまかせておくれ。