「昼すぎに得意先の会社で働くパートのオバサンがたと話したんだけどさ、なかなか面白かったよ」
「定期的に様子を見に行ってるんだっけ。仕事柄、ご苦労さまよね。で、何が面白かったのかしら」
「いやさ、女って怖いとつくづく感じたんだよな。それはもう、うわさ話というか陰口大会というかな」
「ああ、そっちのことね。それはしょうがないわ、習性みたいなものだから。でもやめられないのよね」

そのオバサンたちの肴になっているのは、古参の女性社員。ときおりキツい言葉を浴びせるらしい。

「俺も何度か話したことはあるけど、たしかに男勝りな性格だが、そんなに大したことはないんだよな」
「女って同調性っていうか、飛びでた杭を打ちたがるからね。私はそういうのに興味がないからなあ」
「それがさ、本当にヒソヒソと話すんだよ。蚊の鳴くような声で。そこまでして不満を口にしたいのかなあ」
「好きにさせておけばいいのよ。相づちさえ打っておけば、少なくともあなたが肴になることはないから」

いつになく批判的な言葉が多い。そういえば就職したばかりのとき、人間関係の苦労をこぼしていた。

「なんか、疲れちゃうの。なんでその場で言わないのかって。もちろん分かっているのよ、立場の差も」
「パートと正社員の間は、何かとフラストレーションがたまっていくんだろ。俺が緩衝材になるからいいさ」
「さっきもいったけど、うなづくだけでいいからね。目を見ながら、ときどき深く頭を傾けていれば最高だわ」

演技力がそれほどあるわけではないが、なるべく右から左へと話を聞きながすように心がけている。

「女はね、話の内容より、話すこと自体に意味を持たせているから。私は気をつけているつもりだけど」

それでも何気ない会話はさせてね、と懇願する。君のためなら、と荒い息づかいで耳打ちしてやった。