「うーん、今日はしこたま酔ってしまったぞ。やっぱりチャンポンは、体にこたえるな」
「わざわざ長崎までいってきたのかしら」
「そういう細かいボケはいいんだよ。日本酒とビールにワインだ。肝臓の処理能力は大丈夫だろうか」
「あなたって、アルコールに弱いくせにチャレンジ精神だけは豊かよね。でも限度は知らなきゃ」

生来の貧乏性が、楽しめるだけ試してみたほうがよいとうながす。とくに食や酒に関しては。
こういう夜の翌日は、きまって二日酔いになる。しこたま後悔するが、やめられずにいる。

「他人がうまそうに飲んでるのをみると、やっぱり試してみたくなるんだよな」
「隣の芝生は青く見えるようなものね。たしかに、じつに美味しそうに飲む人っているよね」
「そうなんだよな。まさにこの一杯がたまらないって感じで飲みやがる」
「いっそのこと、ひさしぶりに海外旅行してみない。食べ飲み歩きの旅もいいよね」

もちろん、食道楽旅行はいつでも歓迎だ。時間とお金があればの話だが。

「べつにヨーロッパへ行こうってわけじゃないのよ。近場でいいじゃない」
「韓国や台湾とかか。たしかに米が主食だから、レストランに迷うことはないな」
「そういえば、あなたってフレンチやイタリアンを好まないよね」
「ああ。パンが主食なところがどうにも気にいらない。アジア人には、やっぱり米だ」

もはやDNAレベルで染みついているので、パンへの違和感はとれそうにない。
もっとも毛嫌っているわけではなく、たんに主食としての位置にどうにも落ちつかないだけだ。

「そのわりには、焼きそばパンとかコロッケパンとか食べてるじゃない」
「あれはあくまでスナックなんだよ。オヤツがわりさ。三度の食事がそれじゃ、ストレスで死にそうだ」
「じゃ、ご飯とパンのチャンポンはどうなの。ハンバーガーをオカズにして食べるとか」
「いくらなんでも、それは日本人として許せない。ラーメンやお好み焼きなら平気なんだがな」

どっちも同じじゃない、と彼女があきれ顔でいう。うどん定食など、欧米人には未知の世界だろう。

「すくなくとも恋愛はチャンポンしないでね。ミックスされちゃうと、二日酔いどころじゃないわよ」

安心しろ、俺は米が主食だといったじゃないか。それに君という名の酒へ生涯、酔いっぱなしさ。