「ヤツの結婚祝いに粉ミルクを贈ろうと思うんだけど、どうだろう」
「連れ子がまだ赤ん坊だもんね。いくらあっても足りないだろうから、いいんじゃない」
「今日、仕事帰りに近所のベビー用品店で見てたんだけど、いろんな種類があるよなあ」
「そうね。おなじ量でもメーカーごとで倍近く価格差もあるもんね」

実際、乳幼児がミルクの味や飲みやすさなどが、どこまでわかってるのだろうか。
量をとるか、質をとるか。食に対する態度は、人生の永遠のテーマである。

「どんな劣悪な環境でも、とりあえず食えるものがあれば子供は育つんだけどな」
「でも親の立場からしたら、やっぱり栄養価の高いものを与えたいじゃない」
「それがいきすぎて、アメリカでは子供の糖尿病が多いそうじゃないか」
「あれは極端な例だけど、余裕があるなら、あえて質の低いものをあげる理由はないわ」

子供のころから貧乏生活がしみついているため、どうしても質より量をとってしまう。

「胃袋の大きさの差もあるよな。基本的に男は女よりデカいから、量に走りがちだ」
「私も食べられるならそうしたいけど、限界にはかなわないからね」
「どっちにしても子供にはしっかり食べてほしいよな。それを見てるだけで幸せになれるよ」
「うん。無心に食べる姿をながめるのは、なによりも楽しいわ。あなたもそうだけど」

体が大きいせいか、食べる量は成人男子の平均を確実に上回る。一日に米三合はペロリだ。

「俺が米好きなのは、いかに少ないオカズで腹を満たすかに集中していたからだ」
「なんか親の敵のようにゴハンをたべるよね。結局、全部食べてくれるからいいけど」
「やっぱり質より量にすべきかな、粉ミルクは。男の子だと聞いてるしな」

でもせっかくの結婚祝いだからと彼女がいうので、質と量を兼ねることにした。

「こういうことの最初は肝心だから。たとえ年に一度だけでも、祝いごとは大切にしなきゃ」

思えば、誕生日だけは豪盛な食事を親が用意してくれた。食は三大欲の基本だ。
今度の休みに二人で一緒にミルクを選んでみるか。おたがいの未来のために。