「誰からいわれることなく、結果的に残業するのは日本人ならではだよな」
「それが良いことかはわからないわ。中途半端で帰るのは気持ち悪いから、そのときは残るけど」
「本当は、さっさと帰るべきだけどな。残業でのストレスが結果的に支障をきたしたら意味ないし」

一億総職人気質とでもいうか、何ごとにも細部をつめる国民性が過剰な残業を生む。
それがあらゆる製品の質の高さの担保になっているが、命を削る必要まではない。

「最近はあまり聞かなくなったけど、過労死っていまや国際語になったんだっけ」
KAROSHIか。その仕事に誇りをもってたのならいいけど、そうじゃなかったら悲惨の一言だ」
「手塚治虫は死の床までペンを握ってたらしいね。それもひとつの人生だけど私は考えちゃうな」

仕事を人生のなかでどのような位置にするのかで、残業というものの考え方もことなってくる。
そして家庭をもつと自分ひとりの生活ではなくなるため、おのずと伴侶と子供との調整が必須だ。

「好きこそものの上手なれっていうじゃないか。ようはストレスに感じなきゃいいんじゃないか」
「恋愛についてはどうなのかしら。恋多き女と浮気症って紙一重だからね」
「そこに残業代が発生したら面白いけどな。あなたのことを想って仕事が手につかなかった、とか」
「その時間に相当する賃金を払うのかしら。愛情を金銭にかえるのは、あまりにリアルすぎるわ」

そうはいっても、世の中にはそれで生計をたてている女性もいる。いろんな事情が大人にはある。
ただ、やはり過剰になりすぎてはいけない。仕事も恋愛も、相手の気持ちがあってのことだ。

「じゃ、あなたはどうなの。たまには残業してみる気はないかしら。私のためにね」

ちょっと待て、それは俺のセリフだ。毎日、サービス残業をしているのを気づかないフリしているな。