「いやあ、ついつい盗み聞きしてしまったよ。妙齢の女の会話を」
「その言いまわしはちょっとひっかかるわね。相手にとっては失礼にあたるわよ」
「あ、ひょっとしてオバサンと思っているな。これは年頃の女性の古い言い方なんだぞ」
「それって、結婚適齢期のことかしら」
「そうだよ。そのうら若き女性二人が、禁煙について延々とかたってたんだよ」
仕事帰りの電車でうとうとしていると、気持ちのこもった声で女性たちが談義していた。
妙な感じだったが、ともあれ成人してからずっと吸っていたタバコの禁煙方法についてだった。
「なんでも仕事とタバコはつねにセットで、日に二箱はすっていたらしい」
「ストレスがたまってたんだろうね。私は吸ったことがないからわからないけど」
「俺も学生時代に一度ためしただけだもんなあ。とにかく毎日がタバコまみれだったそうだ」
「どうしても匂いが気になっちゃうからね、とくに女性は。で、どうなったの」
「ありきたりだけど、転職を機に禁煙に成功したそうだ。しかもたった15日で」
その期間が長いか短いかは、非喫煙者にはわからない。転職は一番のストレスだと思う。
ところが当の女性は仕事というルーチンが消えた瞬間、タバコを手にとる気持ちが消えたという。
「なんか、それさえもめんどくさいと思ったそうだよ。ひたすら動かない生活をしたとか」
「それまで張りつめていた気持ちが弾けちゃったのね。ニートの予備軍になったから」
「仕事をやめてから実家暮らしにかえたそうで、堕落した生活に拍車がかかったらしい」
「よくそこまで聞き耳をたてられたわね。でもまあ、たしかに何もしたくないときってあるよね」
結果まったく吸わない期間が15日経過したことで、ニコチンがすっかり抜けきったという。
禁断症状もとくになく、究極の引きこもり状態になったことが彼女の体質をかえたらしい。
「でも、そこからよくすぐに働けたのね。普通だったら一年くらいはかかりそう」
「そのきっかけは、ようやく外にでてコンビニに行ったときに、店員から声をかけられたそうだ」
「なんて言われたの」
「ひさしぶりですねって。今日はタバコを買わないんですかってね」
そこで毎日のようにタバコを買っていたので、その店員と顔なじみだったらしい。
だが、いままでまともに声をかけられたことがなかったので、衝撃だったそうだ。
「そこで一念発起し、職探しをしてすぐに働きだしたそうだ」
「想像できるわ。相当の男前だったんでしょうね、その店員さんは」
「どうなんだろうな。第三者に声をかけられたことで、己を冷静に見つめられたんじゃないのか」
台所からちょっとした惣菜とビールを持ってきた彼女。夕食前のリラックスタイムだ。
「じゃ、あなたも断酒してみたら。15日たったころに私が声をかけてあげる。久しぶりですねって」
おい、実家にでも帰るつもりか。最高の肴である君を味わえないなら、酒なんていつでもやめてやるよ。
「その言いまわしはちょっとひっかかるわね。相手にとっては失礼にあたるわよ」
「あ、ひょっとしてオバサンと思っているな。これは年頃の女性の古い言い方なんだぞ」
「それって、結婚適齢期のことかしら」
「そうだよ。そのうら若き女性二人が、禁煙について延々とかたってたんだよ」
仕事帰りの電車でうとうとしていると、気持ちのこもった声で女性たちが談義していた。
妙な感じだったが、ともあれ成人してからずっと吸っていたタバコの禁煙方法についてだった。
「なんでも仕事とタバコはつねにセットで、日に二箱はすっていたらしい」
「ストレスがたまってたんだろうね。私は吸ったことがないからわからないけど」
「俺も学生時代に一度ためしただけだもんなあ。とにかく毎日がタバコまみれだったそうだ」
「どうしても匂いが気になっちゃうからね、とくに女性は。で、どうなったの」
「ありきたりだけど、転職を機に禁煙に成功したそうだ。しかもたった15日で」
その期間が長いか短いかは、非喫煙者にはわからない。転職は一番のストレスだと思う。
ところが当の女性は仕事というルーチンが消えた瞬間、タバコを手にとる気持ちが消えたという。
「なんか、それさえもめんどくさいと思ったそうだよ。ひたすら動かない生活をしたとか」
「それまで張りつめていた気持ちが弾けちゃったのね。ニートの予備軍になったから」
「仕事をやめてから実家暮らしにかえたそうで、堕落した生活に拍車がかかったらしい」
「よくそこまで聞き耳をたてられたわね。でもまあ、たしかに何もしたくないときってあるよね」
結果まったく吸わない期間が15日経過したことで、ニコチンがすっかり抜けきったという。
禁断症状もとくになく、究極の引きこもり状態になったことが彼女の体質をかえたらしい。
「でも、そこからよくすぐに働けたのね。普通だったら一年くらいはかかりそう」
「そのきっかけは、ようやく外にでてコンビニに行ったときに、店員から声をかけられたそうだ」
「なんて言われたの」
「ひさしぶりですねって。今日はタバコを買わないんですかってね」
そこで毎日のようにタバコを買っていたので、その店員と顔なじみだったらしい。
だが、いままでまともに声をかけられたことがなかったので、衝撃だったそうだ。
「そこで一念発起し、職探しをしてすぐに働きだしたそうだ」
「想像できるわ。相当の男前だったんでしょうね、その店員さんは」
「どうなんだろうな。第三者に声をかけられたことで、己を冷静に見つめられたんじゃないのか」
台所からちょっとした惣菜とビールを持ってきた彼女。夕食前のリラックスタイムだ。
「じゃ、あなたも断酒してみたら。15日たったころに私が声をかけてあげる。久しぶりですねって」
おい、実家にでも帰るつもりか。最高の肴である君を味わえないなら、酒なんていつでもやめてやるよ。