「さっき歴史物のドキュメントを見てたんだけど、昔って12歳くらいで嫁に出されてたのよね」
「そうだよ。世の中のロリータ好きにはたまらない時代だっただろうなあ」
「そのころの栄養状態って、いくら貴族だったとしても今よりよかったわけじゃないでしょ」
「すくなくともカロリー面ではそうだな。動物性タンパク質も摂れてなかったろうに」

信長がよく舞った敦盛の人間五十年じゃないが、平均寿命と成人年齢は比例する。
そして工業化以前は国をささえる基本が農業だったため、なによりも労働力が必要だ。
まだ幼いうちから結婚をへて所帯をもたせることで、その不足分をおぎなったのだろう。

「なんか昭和の新聞少年を思いだすなあ。いまでも、その奨学金制度はあるんだろうか」
「まだあると思うけど、いまは少子化だからそんな苦労をさせない親が大半でしょうね」
「俺が気になるのは、栄養状態の低い時代の12、3歳の女って、実際は相当な子供だぞ」
「それは男性も同じだよね。大人同様にきちんと働けたのかしら」
「まあ、いろんな意味で無理はあるだろうな。夜の生活なんて、本当に気になる」

バカねと彼女はとがめつつ、この問題は大きいと感じているはずだ。とくに女ならば。
ローティーンでの出産の危険率は当時の衛生状態とあいまって、相当高かったはずである。

「考えてみれば、いまでもそういう国ってあるよね。とりあえず産んどけって」
「どっちが正しいかは神のみぞ知るんだろうけど、死の危険がつきまとうのには賛成できない」
「そうよね。昔は出産後に死んじゃう女性も多かったっていうから、生き残った子供もかわいそう」

医療の近代化は、出産時の母子生存率を大いに高めた。これは何よりも評価される業績だ。
だが皮肉にも
いつでも安全に産めるという考えが晩婚化に拍車をかけ、少子化にまっしぐらである。

「生きる知恵というか、スキルが年々加速しているせいかしら。子供にはこんな苦労させたくないってね」
「それは無意識で持ってるかもしれない。まあ、過剰に考えすぎなだけだろうな」

私はいつでもいいいんだけど、と一言おいてから彼女がつづけた。

「そうなったときはサポートをお願いね。いくら大丈夫だと言われても、やっぱり不安だから」

そういいながら手を握ってきた。その手は俺の最期のときにも頼むよ。五十年では終わらせないけど。