「そろそろ衣替えを本格的にしなくちゃな。まだコートはほしいとこだけど」
「寒がりだもんね。でも、もう大丈夫と思うわよ。桜も散ったことだしね」
「いやまだわからないぞ。富士山が噴火して、その灰が寒冷化をまねくかもしれない」
「そんなときは服より自分の命を先に心配しなさい。よっぽど冬服をしまいたくないのね」

あとしばらくすれば、湿った梅雨がくるのは分かっている。ちょっとした反抗心だ。
花粉には苦しめられるが、外の散歩にはちょうどよいこの季節に留まりたいのだ。

「そうね。一年中こんな感じだったら、誰もがおだやかな性格になるんだろうね」
「すくなくともストレスは減りそうだな。花粉と黄砂をのぞいてな」
「生まれたときから同じ環境なら、きっと耐性がついてるから大丈夫よ」
「そうだといいけどな。とりあえず春は花の季節でもあるから、楽しいことに違いない」

これだけ四季のはっきりする国も珍しい。その他の地域は、乾季と雨季のみが大半だ。
気候が国民性を生みだすことは誰もが思うところであり、実際そうだろう。
日中、30度超えが年中つづく地域は誰もが働く気を失う。差別している気はないが。

「前にさ、マレーシアへ旅行したときに驚いたのが、誰も汗をかいてなかったんだよね」
「遺伝子レベルで体質が異なってるんだろうな。サウナなんか屁とも感じないかも」
「私は汗っかきだから化粧なんかもすっかり落ちてたけど、彼らはスッキリした肌なのよね」
「赤道に近いから、紫外線へある程度の耐性がついてるんだろうな。日焼けバンザイだ」

白人の肌があまり美しくないのは周知のところだ。すべては遺伝子の紫外線対策である。
ひるがえって衣替えという慣習がない彼らは、季節ごとの服の購入も必要ないことになる。

「どっちをとるかだよね。オシャレを楽しむのを犠牲にして、お金をためるか否かってね」
「なんだ、東南アジアに定住するつもりか。俺は暑いのは苦手だからなあ」
「じゃあ、なんでいつまでもコートにこだわるのよ」
「俺はね、つねに保険をかけておきたいんだよ。そのためには寝汗も許容範囲だ」

まったくもう、とあきれた表情をうかべられた。これだけは性格なのでなおらない。

「せめて寝てる間だけは、私が温めてあげるから。寝相のことは気にせず安心して」

ちょっと待て。いつもベッドから落ちるのはどっちだ。俺は君の救命胴衣代わりなんだぜ。