しらないあいだに鼻毛がでていた。そんな気はなんとなくしていたが、やはり恥ずかしい。
このどうしようもなく取り返しのつかない気持ちは、なんだろうか。たかが毛一本の話である。

「どんなに気づくろっていても、ほんの少しでもハミでただけで人生の終わりを感じるよね」
「まったくだ。とにかく破壊力がすさまじい。千年の恋もなんとやらだ」
「それを注意していいのかも、難しいわ。しかも女同士だととくにね」
「男なら笑いにかえられるけど、やっぱり親友同士じゃないと厳しいところだなあ」

重ねていうが、たった一本である。パンチラのようなものだ。けっして見せたいわけではない。
たまに束ででている老人をみかけると、なにかの挑戦を受けているようにさえ思える。
ポリシーで脇毛をのばす女性はいるが、さすがに鼻毛はない。人体における事故である。

「もし鼻毛がなくなると、すぐに病気になるくらいにフィルターのとしての役目は抜群なのにね」
「そうだとも。そこが剛毛であるほどに、健康体なことの証明になる。履歴書に載せたいくらいだ」
「やっぱり子供には健康第一であってほしいから、婚活には鼻毛の濃さがポイントになるわけね」
「そう、おたがいにな。これからは堂々とハミだすくらいの勢いが必要だ。生命力の証さ」

正直、野放図に伸ばしっぱなしのお見合い写真はあまりみたくない。美女なら、なおさらだ。
人体器官の内側に唯一生えているという事実が、さらけ出したくない本性と重なるのだろうか。

「それは考えすぎだと思うけど。なんだろ、忘れ物をしたって感覚かな」
「うーん、ちょっとそれは意味がわからない」
「顔って、その人の象徴じゃない。そこに、なぜ隠れているものをわざわざ出しているんだってね」
「そのことと忘れ物との関連性はどうなるんだ。あまりつながってないぞ」

わかってないなあ、と小バカにした態度をとる。説明しろと問いただすと、勢いよく言いだした。

「ほら、家に戻っても間に合わない忘れ物ってあるじゃない。エッチな本の出し忘れとかね」

ポンと膝をうつ。エロ本にたとえられる鼻毛はかわいそうだが、役にたつけど隠したい。
ひょっとして今朝の俺のことかと思っていたら、彼女の鼻が得意げに広がっていた。おい、見えるぞ。