三年ぶりの再会をおえ、夕暮れにさしかかったビクトリアハーバーへむかう。
あと一時間で完全に日が落ち、対岸の摩天楼が百万ドルの夜景をつくる。
かわいた風が蒸し暑い香港の空気をすずませ、身も心もゆったりさせる。

「もしもし、俺だけど。いま大丈夫かな」
「うん、いま自宅についたところ。どう、香港の夜は」

スカイプ電話は音声に遅れを若干生じさせるが、それはたいした問題ではない。
ファイル送信を気軽にできる利点があり、さっそくショーアップされた夜景を送った。

「きれいよね、本当。私も行けばよかったなあ」
「昼は暑くて焦げついてしまうよ。湿度も高いから、汗が尋常じゃなかった」
「今日は香港島でのんびりしてきたの」
「いや、写真でわかるように九龍側だよ。ちょっと友人に会ってきてね」

昼間の会話を彼女にもすこしだけ話してみた。

「そうか。いろいろあったんだね、その彼女。いっそのこと貰ってあげたらよかったのに」
「バカいうなよ。彼女は彼女なりに、少しずつ生き方を変えようとしているんだから」
「ひょっとするとお嬢様なのかな。ずいぶん余裕がある気がするわ」
「まあ、貧乏している様子はなかったよ。旦那が結構かせいでるらしいから」
「そうよねえ。やっぱりリアルなところがしっかりしてるから、先送りできるのかなあ」

今朝チェックしたメールの内容を思いだした。ずっと引っかかっていたことだ。
彼女が何にたいして踏ん切りをつけたのか、たしかめる必要があった。

「じつはね、ジョンからメールがきたのよ。俺の正体を知ってくれってことで」
「あのアメリカ人からか。まだニートをやってるんだっけ」
「そう。私も彼をどれだけ信じればよいのか、ちょっと分からなくなってさ」
「結局、まだ考えているの?彼と住むってことを」
「うん・・・最近ね、こう思うようになってね。まいた種をつみとるのは私しかいないって」

ルール違反だけど、と彼女から彼のメールが送信されてきた。

「彼ね、元CIAらしいのよ」

また始まったと思いながら、改行がなくて読みづらい長文メールに目を通してみた。


(つづく)