ベスト盤がこれから出るみたいですね.
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村治佳織
ユニバーサル ミュージック クラシック (2011-10-05)
売り上げランキング: 4797
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まだガリガリ論文を書かなくてはいけないはずなんですが,きちんと土日のリズムがとれてきたこともあり,引越し以来放っておいた楽譜を引っ張りだしてまたさらい始めています.同年の1978年生まれというのは村治さんをはじめ大萩さん益田さん,少し上だと鈴木大介さんとプロギタリストが豊富な世代で10年くらい前まではすごく盛り上がっていました.盛り上がっていた当時はよくわからなかったんですが,いま振り返ると彼らの中でも卓越している村治さんの技術に今更ながら気づくわけです.
彼女の場合,強靭なテクニックに対して性格が普通だったというのがなによりのポイントだったと今では思います.どれくらいのギャップかというとテクニックがマルタ・アルゲリッチなのに性格がNHK女子アナウンサーだったみたいな.この共存は非常に困難です.ちょっと前までなぜ彼女が「ナレーション」という活動にのめり込んでいるのか全くわからなかったのですが,器楽へのめり込むには普通すぎる感性だったのだと思います.
昔はそういうことがわからなくて,なんでこんなに上手いのに空っぽなんだとかおもっていたんです.古くはロドリーゴの多くの作品とか,最新盤ならコユンバンバみたいな空っぽの曲を弾かせたら彼女に右に出るものはまずいません.坂本龍一の曲を非常にうまく弾くのも同じ理由です.しかしバリオスとかビートルズ-武満みたいにウエットで病的な要素が少しでも入ると,とたんに方向感がなくなります.
(空っぽ自体は音楽・芸術にとってひとつの方法です.エリック・サティなどは真空の箱のなかに諧謔と誠意が無限に詰まっています,,,,それだと空っぽではないか...)
ならば歌手が良かったのかというとそうでもないし,バイオリンやピアノだとおそらく途中でやめていたのではないでしょうか.あの業界のステレオタイプへの希求は並大抵ではありません.型の外れ方まで型にはめてきますから.変態にも作法,適切な変態とか.そういった意味でPOPSを弾いても違和感がないギターは良かったのだと思います.
とはいえそろそろ軸を作っても良いと思います.POPSとナイロン弦ギターは確かに相性が良いですが,軸にするにはベクトルが違い過ぎます.なんといってもギターは(かなり近いとはいえ)声が出ませんから.ロドリーゴは弱すぎて軸になりません.武満とバリオスは鈴木大介さんが並ぶ者のない演奏を確立してしまいました.いまから参入しても遅いということはありませんが.
正直答えはないっす.ただなんとなくこのアルバムに収録されたマーラー・アダージェット&チャイコフスキー・花のワルツの本当にギャフンな編曲を聞いて,何か彼女の中で変わってきているのかなとは思います.どれくらいギャフンかっていうとアラレちゃんがフルドレスアップでワーグナーのオペラに出ているような感じです.なにか器楽奏者にふさわしい「いびつな情熱」がないと,あれはできません.
個人的には弟子入りしてでも八代亜紀の伴奏やったらいいと思っています.フラメンコもいいとは思うのですが,彼女は生来のビートが浅草なので難しいと思います.シャンソンやカタロニア民謡を研究して発掘するのもいいかもしれません.完全にロジックが飛びますが,最終的にポンセにたどり着いてくれると非常に嬉しいです.彼は少し文化を飛び抜けたところがあって,そういう意味でどの国の人でもある程度平等に挑戦することができます.私の知る範囲で,マヌエル・ポンセの理想的な演奏をしたギタリストはいません.セゴビアも含めて.
自分に対してということもありますが,昔は20代とか30代でそれなりのことをしなければ後はどうにもならないということばかり考えていましたが,最近になってそうでもないんだということに気づいた次第です.人は30歳からも勝負です.40歳からも,50歳からも勝負だと思います.最後になりますが,本当に皮肉ではありません.ガチで期待しています.