ついこのあいだ,クレーメルのバッハ・無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ再録のときのメイキング・ビデオ(およびパルティータ全曲の映像)がNHKで放送されていて,偶然視聴することができた.というか最近はNHK教育(の英語番組)とスポーツニュースしか見ないので,けっこうそのようなアタリを引くことがある.

クレーメルのバッハ録音はこれが2回目である.

バッハ:無伴奏VNソナタとパル

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ


古い方のものを持っているが,新しいのはまだ買っていなかった.クレーメルのヤバさというかすごさというのはすでに語り尽くされている感があり,もちろんあらたに付け加えることはなにもない.この演奏もきわめて端正で,古典的で,にもかかわらず,あるいはそれ故に,自由に満ちあふれたものだった.久しぶりにまともなバッハ演奏を聴いて,ここ数年意識的に封印していたバッハ熱が不覚にも目覚めてしまった.

バッハにはリュートのためのオリジナル曲や編曲がいくつかみられるが,もちろん6弦ギター用のオリジナル曲は存在しない.しかし楽器の特性から,ヴァイオリンおよびチェロの無伴奏曲集は古くから編曲され,(まともな曲の少ない)ギター界の貴重なレパートリーとなっている.

ギターを始めたばかりの頃,私はバッハばかり弾いていた.それほど悪いことではないが,もともと和声法というものの理屈が全然わかっていなかったため,そして旋律音の絶対音高しか聞こえないという非常に偏った耳のせいで,いわゆる古典音楽をまともに勉強していなかったのである.むかしからバッハを好きだったと言うこともあるが,こんな偏った耳にも対位法はおもしろく聞こえるため,いつもそればかり弾いていたのである.下手したら,ギター界には胸を張れるような古典音楽がないとさえ思っていた.

この間違いに気づいた数年前,私はバッハを封印した.以来,楽譜すら広げたことはなかった.しかし今日どうしても耐えられなくなって,押し入れの中からBWV998をとりだし,さらってしまった.

不覚だった.最近あえて古典音楽ばかり弾いていたとはいえ,和声法のごく初歩的な知識すらまともに自分のものとできていない現在の私にですら,ほとんど一音ごとにある新しい発見にいちいち感嘆し,時間がたつのも忘れこんな時間になってしまった.やはりやめよう.まだバッハは危険すぎる.ソル・タレガ・ポンセ,今後3年くらいも,この3人に絞り続ける生活をあらためて決意した.